キングの異名

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入学4日目、靴棚から内履きが消えてた。 机の上にカラースプレーでしねって書かれてた。 ガキくさ……。あまりのくだらなさに、青は呆れてそのまま席につき、休み時間の度に呼び出されては喧嘩を売られてむしゃくしゃして買ってあげていた。 南堂のボスと呼ばれているらしい三神峯(みかみね)という男に呼び出され、ついに堪忍袋の緒が切れて病院送りにするほどの大怪我を負わせた。 この高校ではそれは珍しい事ではなく、保護者を呼ばれることもなかった。 「青!!何があったの、なんでそんなに血まみれなの!?」 比呂は返り血で制服もクリーニング行きとブラウスはお釈迦決定な青を見て、血の気が引いた。そして、無傷な青に違和感を抱いた。 「これ、返り血だから私は怪我してないよ。」 「ねえ、さっき三神峯先輩が救急車で運ばれたって聞いたんだけど、まさか」 「ああ、そんな名前だったの?俺が頭だっていうから手加減したら失礼かと思って。」 淡々と、心のない声を聞いた比呂は思わず涙が零れた。どうして怒ったり泣いたり、机のイタズラや内履きが捨てられていたことへの感心もないような、感情が消えてしまっているのかと。何が青をそうなるまで追い詰めたのかと。 「青、なんで、そんな、一人ぼっちの顔してんの……」 「変な事聞くんだね。」 「だっておかしいだろ!?嫌がらせされて毎日何度も呼び出されて、怒ってもいいのに!」 「……疲れるだけだから。」 「疲れていいんだよ!人間なんだから!青はお人形でもマシーンでもないんだよ!?」 その言葉に、青は初めて、自分という人間がいかに心を殺して生きてきたのか思い知った。
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