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0.前書き
茶色い戦争があって、それから幾ばくかの月日が流れました。
瓦礫と硝煙とどこまでも無垢な青空に支配された焼け野原は、かつて経済大国3位と言われた国の輝かしき面影を一切感じさせず、生き残った人々の目にはもはや絶望しか映っていません。
私もその生き残った人間の一人です。
家族を失い、友を失い、そして生きる意味すら失った私に、語りえることなどほとんどありはしません。
などと惨めな自分に酔ってドラマクイーンになるのも悪くないでしょう。私も戦争の後に、様々な経験をしました。まだ五体満足なのが奇跡なほどです、それだけ聞けばどれだけ悲惨な生活を送ってきたかわかってくれることでしょう。
でも、私がこれから語る話は、私には関係のない話なのです。
彼女と彼との間の、誰も触れることのできない話なのです。
読者の皆さんは、この世界が滅びた経緯を書き記すことこそが、生き残ったものの責務だと思うかもしれません。
戦争という愚かな過ちを二度と繰り返さないために、書くことが私の責務だと。
でも人間というのは学習しない生き物なのです。
いつの時代でもいろんな人が戦争の悲惨さを語るのに、絶えず行われているのですから。
それに、希望も夢もない世界で、この目を背けたくなる現実を書き残す必要がどこにあるのでしょうか。
今ここに必要なのは、そんな真っ暗くらのくらな世界に灯りを灯す物語ではないのでしょうか。
だから私は書くことにしたのです。
彼女の、そして彼の物語を。
戦争が起こる前に、確かに「ここ」にあった物語を。
それが一つの、たった一つ、しかし力強い道標になると信じて。
私が今から語る話は、フィクションではありません。
世界の滅亡と全く無縁の美しきそのお話は、偶然見つけたバラバラだった数々の痕跡を必死に紡ぎ合わせた結果出来上がった、一つの「物語」なのです。
今ここにはいない、少女少年たちの「青春」という名の物語。
戦争とは無縁だった過去の中で、確かに輝いていたであろう「光」を、私はこの地獄に蘇らせることにしたのです。
どうしてそんなことをするのか、と疑問に思うかもしれません。
でも、私はあいにく答えを、理論的な答えを持ち合わせていません。
たった一つ、たった一つの強い気持ちが、私はそう答えることしかできなのだから。
それは私にとっての信念であり、そして明日を生きる希望なのですから。
さて、私のセンチメンタルな語りはこれくらいにして、そろそろ本題の物語に入ろうではありませんか。
少年の心、少女の願い、他者の視点、そうしたものをつなぎ合わせた青春の群像を、是非ご覧あれ。
そして願わくば、この荒廃した世界に、綺麗な灯火を輝かさんことを。
少女少年ロックンロール物語。
ロックっていうのは音楽じゃない、その生き様を指すのだから。
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