小糠雨の季節に

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 わたしは、あなたたちひとに何か特別に想いを抱いたりはしません。なのに、なぜあなたたちはそうやってわたしに感情を寄せてみたりするのでしょうか。  あなたを最初に見たのは、その母娘の姿が見えなくなったくらいのことです。最初に見た、というよりは、最初に他のひととの違いを認識した瞬間と言ったほうが正しいのかもしれませんが。  あなたは、わたしの目の前へと駆け寄ってきました。  あなたは傘もささず、雨合羽も着ていませんでした。まるでわたしのように全身を濡らして、だけどあなたたちには体温があるので、こういう雨は天敵でしょう。わたしを傘代わりにしたかったのですね。わたしにぴったりと身体を付けても、雨露をしのぐ傘の代わりとしては不十分です。小糠雨は変わらず、あなたの身体を濡らし続けていきましたね。  あなたは泣いていました。  あなたたちはよく泣きます。蛙の鳴き声もうるさいですが、あなたたちの泣く時の声もわたしからすると、とても大きい。めずらしくもない日常の風景ですが、あなたは声を我慢するように泣いていたので、わたしの印象に残ったのかもしれません。
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