小糠雨の季節に

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 そこは多くの小学生たちの通学路になっていましたから、子どもの姿は見慣れたものでした。ながく、その場所にいるわたしほど、たくさんの子どもの顔を見てきた者はいないのではないでしょうか。わたしには子どもの違いなんて分かりません。どの顔も同じに見えてしまいます。  その代わり、わたしは草木の顔ひとつひとつ、その違いを知っています。たとえばあなたはクローバーの違いなんて分かりませんよね。分かるとしたら三つ葉か四つ葉のように葉の数の違いくらいでしょうか。わたしにとって、わたしの前を通り過ぎていく子どもたちは、あなたたちにとってのクローバーのようなものです。  泣いても、怒っても、わたしが感情を動かされることはありません。  だからわたしがあなたを気に留めたのは、わたし自身にとっても、あまりに不思議な事態でした。  あなたは、どうもわたしにとっては特別な存在みたいです。何が特別か、というと、わたしにもよく分かりません。あなたは、わたしにとっての四つ葉のクローバーみたいなものなのかもしれません。
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