真っ白星

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真っ白星

 私が次に訪れた星も不思議な星であった。その星は全体を白い海で覆われていたからだ。私はコックピットから三百六度見渡してみたが、島や陸地は見当たらず、どこまでも白い海が広がっていた。  私は宇宙船を水上着水モードに切り替えてその白い海に着水した。そして早速ハッチを開けて外に出てみると外は甘い香りが漂っていた。 「牛乳?」その匂いは紛れも無く牛乳であった。私は試しにコップでその海をひとすくいして飲んでみた。 まろやかな甘味に濃厚なコクがあり、その牛乳は私が知っている牛乳とは比べ物にならないほど美味しかったのだ。 「おーい、大丈夫かー⁈」私がその美味しさに感動していると声が聞こえた。私が辺りを見渡すと一人の老人が手を振りながらこちらに近づいて来ていた。その老人は小さな家がくっ付いているようなヘンテコな船に乗っていた。 「大丈夫ですよー!」私が答えると老人は安心した表情に変わった。 「良かったわい。墜落してしまったのかと思って心配したのだよ」 「宇宙から真っ白けな星が見えたので降りてみたんですよ。そしたら一面牛乳の海でビックリしました」 「ハハハッ、そうだったか。良かった良かった」私は早速この老人に取材を申し込んだ。老人は快く取材を受けてくれた。 「早速ですがこの海は全て牛乳ですよね?」 「ああ、そうだよ。この星の唯一にして一大産業だよ」 「やはりそうでしたか。するとこの牛乳を他星に輸出して生活しておられるのですね」 「そう、この星の住人は皆んなこの海のおかげで何とか生活しているんだよ。と言っても千億㎥ほどの小さな星に数十人が各々に生活しとるだけだがね…」私は『いくら小さな星とはいえ、えらく人口が少ないな』と思ったが取材を続けた。 「この船は住居兼工場になっているんですね?」取材は老人の船でさせてもらっていて、取材中も何やら機械が稼働していて音を立てていた。 「そうだよ。毎日千ℓくらい乳を精製していて、朝と晩に隣星の業者が取りに来るんだよ」 「へー、そうなんですか。もうこの仕事をされて長いんですか?」 「今年で五ニ年目だね…。まさかこんなに長くするとは思わなかったよ」 「でも良いですね。こんな自然畜産資源に恵まれた星は、この広い宇宙を見てもあまり無いですよ」私のこの言葉の後に老人の表情は一気に強張り、語気も変わった。 「豊かな資源ねぇ…。まぁ、他所の人から見ればそうなるか。アナタもそう思いますかね?」 「え、てっきりそうだと…」 「この星のこの牛乳の海は自然資源なんかじゃ無いんだよ。まぁ、この広い宇宙にはいろんな星があって、こんな星があっても不思議では無いと思うが、この牛乳の海は人為的な物なんだ」 「どういう事ですか…?」 「今から五ニ年前、ワシがニ五歳の時の話だ。その時はまだこの星にも大地があり、海にも海水があった。だが、あの日から一年足らずでこうなってしまったのさ」 「たった一年で…?」 「その日の朝、一匹の乳牛が創り出された。DNAとかゲノム何ちゃらだとかワシには分からんが、とにかく人が足を踏み入れてはいけない領域に足を突っ込んでしまった事は確かだよ。  その乳牛はたった半日で大人になって乳を出し始めた。研究者たちは大いに喜んで乳を絞り始めたが夜になっても次の日の朝になっても乳が止まらなかったんだよ。  そして一週間後その乳牛は処分される事になった。だが、処分出来なかった。  電気を流しても銃で撃ってもその乳牛は死ななかった。毒や薬も効果は無いし、刃物もろくに通らないうえに傷もたちまち治癒したそうだ。  すぐに町中のタンクは一杯になって乳はそのまま垂れ流しにされた。一ヶ月もすると海は白くなっていたよ。  乳牛は木でも鉄でも何でもかんでも食べるようになっていた。そして食べた分だけ乳牛は乳を出し続けた。半年もするとこの星の陸地は半分以下になっていた。一億ほどいた人口は数百になっていたよ。その時の生き残りがワシらということだよ。」 「…。」私は何も言えなかった。 「まぁ、その乳牛のお陰でワシらは安定して良質の牛乳を生産出来ているわけさ。今でもその乳牛は海の底で自らの乳を飲み、その倍の乳を出し続けているそうだ。  多分この状況は半永久的に変わらないだろう。二度と戻る事のない無いこの状況と引き換えにね…」終
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