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第10話 早めのクリスマスプレゼント
「美紀、一寸寄っていかない。渡したい物があるんだ。」僕等は外苑通りの店に入った。
「本当は指輪と思ったんだけど、クリスマスにはまだ早くてピント外れかもしれないが、
これ受け取って。」僕は美紀のために用意しておいたイヤリングを渡した。
「本当はもっと早くに渡したかったのだけど、なかなか機会が無くて。美紀はショートカットだろう、だからイヤリングが似合うかなと思い考えていたんだ。」僕は美紀のうつむき加減の横顔を見ながら話した。
「有り難う、平日じゃぁクリスマスの日でも逢えそうに無いものね。嬉しい!」美紀が素直に喜んで暮れたので、僕も嬉しかった。店を出て
並木道を寄り添う様に歩き始めてから、
「星が綺麗ね。」夜空を見ながら美紀が言った。
「もっと側に居たいね。」
「うん・・・」
「綾姉が越したら、僕の部屋にお出でよ。」
「うん、そうしたい。」
暫く夜空を見ながら歩いてから美紀がポツリと言った。
「今晩泊まっていい。」
「いいよ、遠慮はいらないだろう。」
「お仕事、大丈夫・・」
「うん、明日は何もないし。」僕の言葉に安心した様子で、暫く沈黙が続いてから
「うちの両親もうダメみたい。」
「そんなに深刻になってるんだ。」
「この間なんか、父親を説得しに、ドイツに行こうかと思った位よ。その時は、本当に頭に来ちゃったんで、『結婚して家出ます』てメールしてやったら、『どんな男だ』て返事が返ってきたから、『自分で見に来い』て返事してやった。」一度話し出した美紀の淋しさは、堰を切った様に押し寄せて来た。聞き手に回った僕は、加熱気味の美紀とは対照的に冷え込んでしまっていた。部屋に帰って早速風呂を涌かし、二人で入った。美紀は心のモヤモヤを吐き出したためか、僕の胸の中で気持ち良さそうに眠っていた。
『そう言えば、親父とも暫く合って無いな。』
美紀の事はそれとなく伝えてはあったが、僕の情報より、綾姉から叔母経由の情報の方が
早いのかもしれないなどと考えながら、眠りに入っていた。朝、目を覚ますと美紀が朝食のコーヒーを煎れてくれていた。
「昨夜はゴメンね、途中で寝てしまって、和君に色々聞いて貰ったら、頭の中がスッキリして安心した途端に眠く成っちゃった。だから続きしても良いよ。」そう言って、僕のパジャマの上だけを羽織っていた美紀が、おしりの裾をぱらっと捲って見せた。
「また履いてないの。履き忘れないでね。」
「昨夜手洗いして乾燥機に掛けてあるから大丈夫。今履こうか?」
「それって、あのセクシーなやつ。」
「残念違います。普通の。」
「それなら、履かなくていいや。」お互いの会話にそれぞれ笑いながら、コーヒーを飲み始めた。
「ここに泊まっちゃうと、何時も和君の方が早く起きてて、だから今日は私がと思って頑張ったのよ。」
「うん、美味しそうだ。」僕等が、朝食を食べ始めてから暫くして電話鳴った。
「綾姉なら携帯に掛けてくるのに、誰だ。」
僕が電話に出ると、相手は叔母、綾姉の母親だった。僕は空かさず美紀に下着を着けるよう指示した。
「綾姉は愛人の家に居て、今留守ですよ。」冗談半分で対応すると、電話口で笑いながら叔母が
「解ってるわよ。今日は和也に話しがあるの。一寸逢えないかしら。」
「今何処ですか、まさかアパートの前とか言わないで下さいね。」この言葉に、美紀が素早く反応して身支度を始めた。
「ええと此処は、信濃町駅ね。」それを聞いて奇襲は免れたと二人してひとまず安心しながら、叔母との電話を続けた。
僕は待ち合わせの場所を教えてから
「綾姉は本当に居ませんよ。」
「さっき電話で話したから、あ、そうそう和也の彼女も連れてきて、どうせ親戚になるんだから。」何だかすっかり情況がばれている様であった。電話を切ってから
「また邪魔が入った。」僕がぼやくと、
「叔母様?」
「うん、綾姉の母親で、僕の亡くなった母の姉。」僕等は身支度をして、駅に向かった。駅周辺は、師走の雑踏で普段より賑やかであったが、叔母さんは直ぐに見つかった。
「お久しぶりです。」
「ほんと久しぶりね。ちっとも帰って来ないんだから。其方が美紀さんね。美人じゃない。
綾佳から事情は聞いているけど、一人っ子なんですて。ご両親にもちゃんと挨拶しておかないと。」一人で捲し立て始めた叔母を制して、並木通りの馴染みの店に入った。
「今日は綾姉の事じゃないの?」
「それは明日。」普段から和服を着こなしている叔母は、その仕草や振る舞いが妹であった母に似ていた。
「明日先方に乗り込むわけ。」
「そんな失礼な事しないわよ。食事でもて考えてるのだけど。」
「ああ、解った、良い所紹介しろって事ね。」
「ええ、それもある。綾佳の事の前に、和也に話して置くことが有るのよ。貴方のお父さんとの事。」叔母の言葉に美紀が反応した。
「まさかご結婚なさるとか。」
美紀には、家の家族の事情は粗方説明してあったので、その辺の情況は察していた様だった。
「あら、先に言われちゃったわね。」
「あ、すいません。」
「話は和也から聞いているみたいね・・・ずばりその通り。だからそうなると、貴方達の母親って言う事になるから。」
「はあ・・・で、綾姉は、従妹じゃなくて姉さんて事。」
「あ、そうね。でも大して変わらないでしょ今と。どうせ一緒に住んでるんだから。」
「まあそうだけど、綾姉はもうじき引っ越すて言ってたよ。」
「綾佳の方にも頼まなければいけないけど。跡継ぎの事。」
「気が早くない。それに、叔母さん自分で生めば。」
「ばかな事言わないでよ。そんなのギネスブックものよ。」僕の茶化しに一寸ムキになった叔母を取り繕うように美紀が言った。
「うちも同じ問題を抱えていますので・・・ええと、何人産めばいいのかな!」美紀は故意に笑いを取るように話した。そのためか、僕と叔母の少々険悪な雰囲気が消え
「まだ気が早かったわね。まあその時になって考えましょう。」と叔母は、あっさりと引いてくれた。その後、美紀の助言もあり、青山近くの店を紹介した。かなりの高級店ではあったが叔母も気に入り、お礼にと夕食をご馳走になった。叔母を新宿のホテルまで送った帰り道で
「ああ、今日は得したんだか、損したんだか。」
「でも、まだ時間早いよ。」
「ええ、」
「私もう一晩泊まるから。だって頑張って産まなきゃいけないものね。」笑いながら言った美紀の言葉が嬉しかった。
結局、所謂ラブホテルと言われる所に入ってみたが、
「何だか変な罪悪感が残るね。やっぱり和君の部屋の方がいいな。」美紀の言葉に僕もうなずいた。
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