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3 朝霧
現世に生きる人間たちは知らない。
山が、夜明けのたびに、姿を変えていることを。
山が、朝霧に覆い隠されるたびに、生まれ変わっていることを。
まだ夜の面影の残る雲が、冷たい風に身を任せ、山々を見下ろしているとき。
空気に隠れていた霧は一斉に溢れ出し、山を包み隠す。
そしてそのまま、山を幽世へと連れ去ってしまうのだ。
やがて、白い雲が明るむ空を漂いはじめ、その雲の隙間から朝日が顔を覗かせるようになる。そうすると、朝霧は蜘蛛の子を散らすかのように、飄々とどこかへ消えていってしまう。
その跡に残されるのは、昨日と変わらない荘厳たる山々だけである。少なくとも、現世の人間たちにとっては。
山は現世にあって、現世にない。その意味は、ただ朝霧のみぞ知る。
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