きよこ~お掃除おばさん~①

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中央改札を出て右へ。 朝の出勤時間に来たことある方、いるかしら? 人、人、人。それもすべて同じ方向へ。 異様な光景よね。たまに外国人が写真撮ったりしているし。 私の仕事場は、駅からすぐのビル。 雨が降っていても濡れないで行けるのよ。 便利なの。 だけど朝の時間はエレベーターもすごい混み様。 混んでいてほんと嫌よ。 ドンッ 「痛っ」 後ろから急いで走ってきた、若い女の子のバックが当たって転んだ。 バッグの中身が床に飛び出る。 「あ、ごめんなさい」 女の子はちらっと私を見てそう言うと、去ろうとした。 すると、若い男の子がバッグの中身を拾ってくれた。 他の人は見てみない振りしてエレベーターに乗っていくのに。 若い女の子は、慌てて戻ってきて拾うのを手伝った。 「ありがとう、助かりました」 私は、男の子の目だけを見てお礼を言った。 「いえ」 男の子は、それだけ言うと去っていった。 女の子は、男の子に「ありがとう」やらなんとか言ってたわ。けっ 11時。 お昼前に給湯室の掃除に行かなきゃ。 給湯室に着くと、女性3人が順番にコーヒーを入れていた。 あらあら、こうゆう時は面白いことが聞けるもんよ。 私は、入り口付近を静かに掃除する。 「ていうかさ、波多が鏡の前で長い時間髪の毛整えて、キメ顔して、まじきもいんだけど。歩き方もモデル歩きまねてカツカツ音鳴らして歩いてるし、ほんとイライラする」と20代くらいの女性。 「よっちゃん、怒ってるね~。でも大丈夫、波多は意外とスタイル悪いし。よく見ると可愛くない」と30代くらいの女性。 「あいつさ、小向くんのこと狙ってるの。それもほんとむかつく」 なるほど。そんなイラつくのは、あなたも小向くんが好きなんじゃない?って思っちゃう。 「あら、そう思うならそれは、あなたも小向君のこと好きなんじゃない?」 黙って聞いていた3人目の50代くらいのおばさんが言った。 あら、私と同じ考え。 「いや、そんなことないです」 20代くらいの女性は耳が真っ赤になりながら、否定しているのが見えた。 これは図星ね。 「好きなら好きって認めたほうが楽よ。おばさんの知恵。ははは。でも、波多さんにはいいイメージはないわね。会長の愛人っていう噂があるし。だから、日向君には合わないと思う」 「ええ!まじですか?」 「あんた、頑張って日向君にアタックしなさいね。玉砕覚悟で」 「玉砕って、振られる確実みたいに言わないで下さいよぉ~」 女性3人は、各々席に戻っていった。 「へ~、会長とね~」 洗い場を掃除しながら、私はつい独り言を言ってしまった。
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