選択不可避のメイナード

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 *** 「国をお掃除します、ね」  はっ、とメイナードの友人、フィルはキャンパス内のベンチで鼻を鳴らした。 「滅茶苦茶過ぎるだろ。こんな法律が正式に施行されたら何が起きるかなんて明白だ。王様は何を考えてるんだか」 「フィル、声が大きい。偉い人に聞かれたら捕まってしまう」 「わーってるよ!でもお前だって不満に思ってるんじゃねーのかよ、メイナード!酷すぎるだろうが、貴族以外は人間じゃねーってのか!」 「…………」  思っている。フィルの不満は、そのままメイナードにとっても不満だった。王様が突如ぶち上げた法案は、実質貴族院ではろくな審議もされることなく通されるのが目に見えている。彼らは一応、王様の提案した法律であっても反対する権利が与えられているが――それも上辺だけのものだと皆が知っているからだ。  王様の意見に逆らった議員は、確実に手回しされてクビにされる。  最悪国家反逆罪をでっちあげられて捕まることもあるだろう。そもそも、貴族院は貴族だけで構成された議会。庶民院より権限も上であるし、何より今回の法律で実害を被る連中ではない。形だけの審議を一週間ばかり経た後、二週間程度過ぎる頃には正式に施行される旨が発表されることは目に見えているのである。  国家美化計画推奨法、とは。  この国の増えすぎた人口を、強制的に削る法律だ。確かに、この国は近年爆発的に人口が増加したことでも知られている。比較的温暖な気候、海に囲まれた島国。よその国からの莫大な支援を得るため、移民を積極的に受け入れてきたということもあるだろう。問題は、狭い国土で養える人口には限りがあり、その限界ラインを政府がしっかり見極められなかったということではなかろうか。  この国は温暖で資源も豊富だが、その代わり沿岸部の地質は悪く、畑や森を作るのに適していない。埋立地には安い住宅地が次から次へと建築されたが、地震や津波が起きればあっさりと沈んでしまうエリアであることも間違いはなく、国はそれがわかっていながらなんら対策を取っていない状況だった。  安全で、温暖で、ライフラインが整った土地はこの国でもほんの一部の地域のみ。
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