選択不可避のメイナード

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 人口の増加に食料や物資の生産がまるっきり追いつかず、無理に生産ラインを加速させようとした結果工場の排気や汚水で地質汚染大気汚染が深刻になり。ますます人が住める土地が減るという悪循環。  結果、王様は自分たちの安全を確保するために、最悪の法律を打ち出したというわけである。  それが、国家美化計画推奨法。――国民のうち、“貴族以外”の全員に――人口の削減を強制する法律である。つまり。 『今、この国は未曾有の危機に瀕している!これを機に私は、この国の大掃除をしなければならぬと覚悟を決めるに至った!増えすぎた人口を、減らさねばならぬ。目標は……人口の三分の一の削減である!つまり』  王様はしらじらしく涙を流しながら、こう演説したのである。 『王族貴族を除く国民のうち、十歳以上の国民全て!一人につき一つ、この大地に命を捧げていただきたい……!不要な命はもはやこの国にとって負の遺産である。全て綺麗に掃除されなければ、他の“生き残るに値するべき者達”に未来は生まれないことだろう。どうか、この決断に理解と支持を求めたい……!』  それは、国民たちに恐るべき選択を迫るものだった。  つまり殺人か、自殺か――だ。  十歳以上の国民は全て、自分一人分の命の対価を国払わなければいけないのである。己が自殺するか、あるいは“不要な人間一人を殺害”するか、だ。 「しれっと王族貴族は除外。そりゃ、貴族どもは自分たちが被害を被ることにならないんだから、大賛成するよな。下民が減って自分たちのメシの種が増えるなら万々歳だとでも思ってんだろ」  十九歳でお互い中流階級のメイナードとフィルは、当然この法律の規定に含まれる。つまり、法律が施行されたら最後、定められた期間内に選択をしなければならないということだ。  己の命を捨てるか、誰かの命を犠牲にするかという選択を。 「フィルは、どうする?」  考えなければならなかった。人を殺すか、自分が死ぬか。
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