選択不可避のメイナード

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 貴族と王族を対象から省いて、かつ国の人口を三分の二近くまで減らすとなると。庶民の負担がどれだけ膨大になるのか、言うまでもないことだろう。もっと言えば、九歳以下の子供も除外されている。殆どの死者を、働ける若者で賄うことになりかねないのは明白だった。それこそ、六十歳以上の老人を皆殺しにしたところで、目標値には到底足らないのだから。  それは、生き残った人間たちにも大きな負担を強いることになる。  働き手が減った工場は、商店はどうなるのか。  生き残った者達が少ない労働力で馬車馬のようになって働いて過労で倒れたら、国はどう責任を取ってくれるのか。  そもそも誰かを殺して生き残った者達の中に、精神を病まずに健全な社会生活に戻れる人間が何人いると思っているのか。 「フィルだから言うのだけれど」  メイナードは、ずっと思ってきたことを口にする。 「この国は階級社会であるけれど、経済を回しているのはほぼほぼ一般の庶民の方だ。庶民が作る作物が市場に出回り、労働階級の人達が一生懸命働くことで工場が動く。一方貴族達の多くは働かないか、あるいは名前だけの軍人やいてもいなくてもどうでもいいような大学名誉教授をしていたり……貴族がいかに楽にできるかばかりを貴族院で議論して、庶民の役には全く役にたたない連中ばかりであると感じる」 「め、メイナード。お前も言うな……」 「みんな思っていることだと思うけれど。……本当のところ、王族貴族の大半はいなくなっても国は持ち直せるけれど、庶民が多くいなくなる方が国は困るはず。国外の貿易や輸送、パイプラインの基礎を作っているのも一般市民だ。語学が堪能で海外の事情に詳しい人間は別に必要だけれど、庶民の力がなければ国は国外と交渉をすることもできないだろう。よその国からの輸入に頼ってどうにか食料を賄えているこの国で、そういった人々がいなくなってしまうのも外国に逃げてしまうのも致命的だ」  ゆえに、とメイナードは結論を出す。 「この法律は、悪法。市民は誰ひとり得をしない。貴族も貴族で、結局自分達の首を絞めることがわかっていない。働き手が減って経済が回らなくなったら、王様が次に命じることが何なのかなんてわかりきっている。……今まで特権を認めてきた貴族の権利の多くを剥奪し、貴族たちにも工場や農場で働けと言い出すことだろう」
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