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愚かなことだ、とため息をつく。フィルはあっけに取られてこちらを見ていた。何か、そんなおかしなことを言っただろうか、と段々不安になってくる。フィルが政府に反発を持っていることを知って発言したつもりだが、流石に言いすぎてしまっただろうか。高校時代からの友人である彼のことは信頼しているし、けして自分を裏切って政府にリークしたりなんてこともしないとわかっているけれど――。
「……メイナード」
暫く沈黙した後、フィルは告げた。
「前にさ、お前と話したこと覚えてるか。本で読んだ内容だ。選べない、選びたくない二つの選択を強制された時人はどうするのか。檻の中の平和と、罪人として追われながらも自由に生きるのと」
覚えている。まさに、メイナードも全く同じことを考えていたのだから。今の状況はまさに、メイナードがかつて読み、フィルに貸した小説で問われていることと同じなのだから。
『絶対的な力に支配された王国。着るもの、食べるもの、遊ぶものが全て制限された中であなたはどうしますか?
大きな力に逆らって、町に野山にと逃げ回りながらも自由に生きる日々。
大きな力に従って、目先の楽しみと権利のみ与えられ、疑問を封じて檻の中で生きる日々。
この二つしか選べないとしたら、あなたはどちらを選びますか?』
あの時は、自分達がそんな選択を迫られる結果になるなんて思ってもみなかった。
自分が死ぬか、誰かを殺すか。
そんなどちらを選んでも地獄の二択を押し付けられて、今自分達は圧倒的な力の前にじわじわと絶望しつつある。本当にこんなものが許されるのかと怒りを抱きながらも、どうすることもできない。
そんな二択、どっちも選べないなら、一体どうすればいいのか。
「あの時は、そんな二択しかないなんであんまりだと思ったんだ」
「うん」
「で、今俺達もそんな二択を迫られてるわけだけどさ。……なあ、それでも今も同じことを思うんだ。そんな二択だけなんてあんまりだろうと。……これ以外の、三つ目の選択を選ぶ権利は俺達にはないのかって」
「え」
三つ目の選択があるというのか。目を見開くメイナードに、フィルはポン、と肩を叩いて言った。
「何で驚くんだよ、たった今お前が言ったじゃねえか、っと!」
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