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選択不可避のメイナード
以前、本でこんな文章を読んだことがある。
『絶対的な力に支配された王国。着るもの、食べるもの、遊ぶものが全て制限された中であなたはどうしますか?
大きな力に逆らって、町に野山にと逃げ回りながらも自由に生きる日々。
大きな力に従って、目先の楽しみと権利のみ与えられ、疑問を封じて檻の中で生きる日々。
この二つしか選べないとしたら、あなたはどちらを選びますか?』
そんな二つしかない選択を強いられる時点で、その人間は相当不幸に違いない――メイナードはそう思っていた。そして、自分がそのような選択を迫られることなどきっとないに違いないと。それは多分、自分が今生きている王国の力が強大なものであると知りつつ、そこで特に不自由を感じる心配もない中流階級の人間だったからに他ならない。父親が貿易商として成功しているので、中流階級の中でもかなり貴族に近い裕福な暮らしができているから尚更だ。
階級社会のこの国では、今日も下層階級の者達が食うにも困って路頭に迷っている。
彼らを助けてやりたい、そんな仕事がしたいと思ったことがないわけではない。けれど、メイナードは自分のちっぽけな正義感などではそんなことなど成し遂げられないと知っていた。少し語学が得意で、少し計算が得意で、少し運動が得意なだけのただの学生に一体何ができるだろう。
ならば今の階級に甘んじて、さほど不自由を感じることもない生活を安穏と続けていくのがベストな選択だ。そうに違いない。町を歩いていて、時折物乞いの少年少女を見かけても。ボロボロのドレスで街角に立つ娼婦を見かけてもずっと見て見ぬふりをしてきたのである。
だが、ある時突然、国はとんでもない命令を出してきた。
世界はそんなメイナードの怠慢を許さなかったのだ。
それが、“国家美化計画推奨法”と呼ばれるもの。
推奨、なんて言えば聞こえがいいが、実際は国民たちに“大規模な大掃除”を強制するものである。
何を掃除するのか?
決まっている――“要らない人間”を、だ。
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