間違い電話の彼

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間違い電話の彼

季節は廻り秋から冬にかわり、もうすぐクリスマスという頃。 3、2、1……~♪ タイミングぴったりにスマホが軽快な音で着信を知らせる。 ――――彼だ。 素早くスマホをタップする。 少し食い気味に。 待ちわびていた自分の心そのままに。 「もしもし」 相手からも同じく 「――もしもし」 とだけ返って来る。 たったこれだけなのに彼の声を聴くと心がほんわりと温かくなる。 「今日はまたれいの友人の話なんですが――」 自分でもおかしいと思うのだが、思えばストーカーかもと疑ってもおかしくないな間違い電話に嫌悪感を抱いたことなど一度もなかった。 ぼんやりとただのお絵かきマシーンだった最初の頃も、今も一度も。 電話の向こうの彼の雰囲気がそうさせるのか。 最近では名前や身分など個人を特定させるような事はお互いに言わないが、天気の話から始まり身近な出来事などを話すようになっていた。 そこから垣間見える彼の姿。 昨日の彼の友人の話は面白かった。寝ぼけていたのかパジャマのまま大学に来て、ファッション?と誰も指摘せずに一日過ごしたのだとか。 久しぶりに声を出して笑った。 彼の話す話をつなぎ合わせて浮かび上がるのは、 彼は大学生で、友人も多く明るい性格で両親とお兄さんとの四人暮らしらしい。 子どもの頃身体が弱く大病を患っていて、他の子は外で元気に遊んでいるのに何で自分だけ寝ていないといけないのか、と周りにひどく当たり散らしていたとか。 そんな時お兄さんがくれた一冊の絵本に出会って、勇気づけられたらしい。 それからは誰を恨む事なく治療も頑張って高校に入学する頃にはすっかり健康優良児になったんだとか。 彼の話を聞いて以前のオレだったらどうせオレなんて一生かかったってそんな絵本描けっこない……って思ったかもしれない。 だけど、彼と話すようになってオレは自分もいつかそんな絵本が描きたいと素直に思えるようになっていた。 オレは、間違い電話の彼に興味以上のものを抱いてしまっていた。
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