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 虹坂彩斗(こうさかさいと)は、パーフェクトツンデレイケメンな人気者だった。  運動神経抜群、学力トップクラス、顔面偏差値歴代最高、料理男子、ツンデレなどなど……天が忖度したとしか思えないほどの才能を持ち合わせていた。  にも関わらず、虹坂自身はそのことを一切鼻にかけず、「全然すごくねぇよ」と、ぶっきらぼうに謙遜した。  そんな彼がモテないはずがなく、クラスで一番の人気者だった。男女問わず慕われ、頼られ、彼の周りには常に誰かしらが取り巻いていた。  クラスが変わっても人気は衰えず、むしろ白熱していった。  十二月に入り、あと一ヶ月で一年が終わろうとしていた頃、虹坂はあるクラスメイトを気にかけていた。  彼女は北見雨莉(きたみ あめり)。虹坂の隣の席に座っている、物静かな女子だ。  雨莉は虹坂や他の生徒と、ほとんど喋らない。毎日一人で本を読んで過ごしている。  友人がいる様子もなく、クラスで孤立している彼女を、虹坂は同じクラスになってからずっと気にかけていた。 「今日は何の本、読んでんの?」 「……」  先生が来るまでのわずかな時間に、雨莉に話しかける。  以前は話しかけた瞬間に悲鳴を上げられたり、虹坂から逃げるように席を立たれたりしたが、最近は黙って聞いてくれるようになった。  とは言え、視線を合わせてくれることは一切なく、本当に聞いているかも分からない。  このまま会話することなく、一年を終えるのかもしれないと虹坂は思っていた。
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