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「……雨のち虹」
「え?」
その時、雨莉がボソボソと小声で答えた。
まさか答えてもらえるとは思わず、虹坂は聞き返す。しかし、反射的に聞き返したせいで、少し威圧的になってしまった。
「あ、ご、ごめんなさい。てっきり、質問されたと思ったから……」
雨莉は虹坂にイラ立たせてしまったと勘違いしたのか、涙を浮かべ、謝る。
虹坂は「いやいや、怒ってないから」と慌てて弁解した。
「せっかく答えてくれたのにごめんな」
「ううん。私こそ、すぐに答えなくてごめんなさい……」
雨莉は涙目で、なおも謝る。虹坂が怖いというよりも、「とにかく謝らなければいけない」と思い込んでいるようだった。
「はい、授業始めまーす」
そこへ先生が教室へ入ってきた。
虹坂は「そんなに謝らなくても大丈夫だから」と雨莉を励まし、先生の方を向く。
雨莉も本を閉じ、いつも通り口をつぐんだ。
彼女と普通に喋るには困難な予感のするスタートだったが、
(なんだ、喋れるんじゃん)
虹坂は俄然、雨莉ともっと話したくなった。
「明日は授業参観です。ぜひ、ご両親に来てもらって下さいね」
帰りのHR、担任から授業参観のお知らせがされた。
案の定、「えー!」「来て欲しくねー」と不満の声が上がる。
見られて困るものは何もない虹坂は、なぜ皆が嫌そうなのか不思議だった。
「北見の親も来んの?」
虹坂は何の気なしに、雨莉に尋ねる。
雨莉は青ざめた顔で、震えていた。
「おっ、おい! 大丈夫か?」
「……来ないよ。あの人達、私に興味ないから」
チャイムが鳴り、HRが終わると、雨莉は鞄を手に、フラフラと教室を出て行った。
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