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翌日の授業参観。今年最後の授業参観とあって、教室にはクラスメイトの親達でギュウギュウだった。入れない親は、廊下の窓から授業を見ている。
虹坂の母親も、廊下からこちらを見ていた。虹坂と目が合うと、年甲斐もなく手を振ってきた。
雨莉は学校には来たものの、朝から顔色が悪い。親達からの視線を避けるように、机広げた教科書をジッと見つめ、うつむいていた。
(授業参観に嫌な思い出でもあんのかな?)
虹坂は雨莉の様子から、なんとなくそう感じた。
「じゃあ北見、この問題解いてくれるか?」
しかし担任は雨莉の異常に気づかず、彼女を当ててしまった。
黒板に書かれた問題を指差し、雨莉に視線を向ける。他のクラスメイトや親達も、一斉に雨莉へ目を向けた。
「ひっ……!」
雨莉は小さく悲鳴を上げる。顔から血の気が引き、真っ白になっていた。
ショックで動けないのか、固まったまま席から立とうとしない。次第に周囲が怪訝な表情を見せ始めた。
「どうしたのかしら」「問題が分からないんじゃない?」「緊張してるのかもよ」
聞こえてくる声が、次第に幻聴へと変わっていく。
「早く答えなさいよ」「話、聞いてなかったの?」「ざまあみろ」
聞こえないはずの嘲笑が聞こえるようで、雨莉は今すぐこの場から逃げ出したくなった。
(……せっかく、空気に徹してきたのに。私、また笑い者にされるんだ)
涙がぽろぽろこぼれ、ノートに丸いシミを作った。
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