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「はあ、あの、僕の名前は笹であって、米ではないんですが……」
コメ、コメ、と呼ばれる男の苗字は「笹」である。
なんならパンダでも良さそうなものだが、チーム随一の常識人である篠原は、少し困ったように愛想笑いを浮かべた。
「知ってます。ごめんなさいね、愛称ですよ愛称。ニックネームという感じです。気にしないでくださいね」
表向きな説明だが一応の配慮はある。笹が頷きかけたところで、市山が被せてきた。
「ササニシキだから米なのは、当たり前じゃないですか」
「しょうがないですよねー。誰だってコメって呼びますわ。うははは」
トドメを刺した後藤の言葉に、笹の顔には諦めに似た薄い影がさす。
「しょうがないって、あのですねー……」
言われっぱなしではいけない、と思ったのか意を決した笹が言い返そうとしたのだが、それは花崎によって遮られた。
「すごいですよね、ある意味で。クライアントの名前が山田錦で外注デザイナーがササニシキ。酒と米のダブル錦コンビですもん。これを目の前にして炭水化物を意識するなっていう方が、ちょっと無理がありますよねー」
「花崎さんまで、そんなことを……」
ふわふわ系かわいい女子の花崎からでてきた言葉に、あからさまに傷つく笹に市山はニヤリと笑みを浮かべた。
「あ、もしかしてショックを受けてます? コメのくせに」
「あらあ。もしかして、花崎さんが好みだったのかな、コメさんてば」
そこに市山が乗っかり、さらには面白いものを後藤が嗅ぎつけた。
「おろろろ? これはもしや、波乱の気配ですな? コメは花崎どのがエンゲー―――ジしたこと、知らないのでござるか」
「えっ」
後藤が投下した爆弾に、笹の動きが止まった。
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