第1章「あの事件、語る男たち」

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 まだ若い女性だが、その風貌、シャープなスタイルと能力の高さと共に、このITサポートチームのマネージャー職についていた。 「お疲れ様です、垣田リーダー。どうでしたか? 打ち合わせは」 「お疲れ様です、リーダー。随分と長かったですね」  篠原と市山が声をかけるが、垣田はまるで疲労感を表すように勢いよく自席についた。 「どうもこうもないよー。ったく、あの酒やろーめ。酒米の山田錦に失礼だっての、名前詐欺だ、訴えてやりたい!」  どうやらクライアント側の担当者、山田錦に何かムカつくようなことがあったらしい。山田錦はウォルフィの正社員であり、外部委託チームである垣田らをまとめる立場にいるのだが…… 「でも、山田さんの苗字は仕方ないんじゃないですか、代々そういう苗字なんだし、どうせなら錦って名前の方に問題が」 「篠原さん、そういう問題じゃない気がします」  垣田は盛大なため息と共に、デスクに肘をついて頭を抱えた。 「もー、あいつ、あの知ったかぶりバカクライアント! 絶対あいつ、いつか精神的にミンチにしてドラム缶詰めにして表に山田錦、醸造中ってラベルを貼ってやりたい!」  とても物騒な発言だが、篠原はなにやら真面目な顔で眉を寄せた。
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