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すると旦那さまは怒るような素振りは一切見せず、わたしの手から指輪を受け取ってくださいました。指輪を右親指と人差し指で持つと、目を細めて眺めます。
「そうでしたか。書斎に、落ちていましたか」
「申し訳ございません。どんな罰でも受けます」
「いえ、探していたのはここ数年のことなのです。寧ろ、見つけてくださって感謝しています」
旦那さまの目尻の皺が深くなります。
喜んでいることは、わたしにも分かりました。ここでようやく、わたしは安堵します。
「手を、出していただけますか?」
「はい」
促されるままに両手を差し出すと、旦那さまはなんとわたしの左手に触れ、くるりと掌を上にしました。温かな手に驚いていると、さらに旦那さまは渡したばかりの指輪を恭しく載せたのです。
「この指輪は、本来ならあなたが持っているべきなのです。だから、あなたが見つけたのでしょう」
「旦那さま、それは一体どういう意味なのでしょう」
「それは、あなたがここの家政婦を卒業するときに教えてあげましょう。それまではふたりだけの秘密です。……いいですね?」
すると旦那さまは、悪戯を思いついた少年のように、自らの人差し指を口元に当ててみせたのでした。
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