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Necessary or Unnecessary?
「ねぇ、カズ君。
要らない物はカズ君も、この際全部捨てちゃってよ。
こんなに散らかったままじゃ、年も越せないじゃない!」
先日テレビで見た、捨活特集。
それにあっさり感化され、ごみ袋を手に自身の私物を要、不要の二種類に手際よく分別しながら訴えた。
すると彼はスマートフォンの画面から視線を上げる事なく、面倒臭そうに答えた。
「でも全部、必要だし。
要らないもんなんて、ひとつもないよ」
部屋の片隅に置かれたままの、段ボール。
それらは二人一緒に暮らし始めて一年が過ぎた今も、開封される気配すらない。
......なのに本当に、全部必要なの?
私は当てつけがましく大きな溜め息を吐き、無言のまま作業に戻った。
これは、要る。これは、要らない。
これは......うん、もう使わないかな。
仕分けを機械的に進めていく内に、濁り、澱んでいた頭の中が次第にクリアになっていく気がした。
それに合わせてどんどん上がる、作業ペース。
付き合い始めた頃は、勤務日数は少ないとはいえ曲がりなりにも働いていたはずなのに、いつの間にか仕事を全て辞め、私の暮らす部屋に勝手に転がり込んできた彼。
自由奔放で気紛れで、まるで猫みたいなカズ君の事を先に好きになったのは私の方。
だけど仕事を終えてくたくたになって帰宅しても、生活費は一切出さない癖に当然みたいな顔をして、『今日の晩飯は何?』って聞いてくるこの人は、私のこれからの人生に本当に必要?
っていうか、そもそもの話。
......私はまだ彼の事、好き?
私が買ったお気に入りのソファーに寝転がり、スナック菓子を頬張りながらネット配信のお笑い番組に夢中な彼を見て、ふと浮かんだ疑問。
そしてその答えはそのまま音になり、口から溢れ出た。
「ねぇ、カズ君。
今すぐ、出ていってくれない?
......カズ君ももう、要らないや」
慌てて起き上がり、私にすがり付く姿を見ても、まるで心は動かなかった。
だから笑顔で、告げたのだ。
「住む場所が決まったら、すぐに連絡してね。
その段ボールの山、ぜーんぶ送ってあげる。
だって私は、要らないもの。
もちろん、着払いでね」
それから私は何事もなかったみたいに引き出しに視線を戻し、唖然とする彼を尻目に、また作業を再開させた。
「これは要る、これは要らない。
これは......」
【完】
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