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渡りに船
デデデデ・デーレデン
おきのどくですが ぼうけんのしょ1ばんはきえてしまいました。
八方塞がり、五里霧中。
俺の脳内にトラウマ音楽とともにメッセージがだらだらと流れ出す。当然だ、目の前の光景は縦から見ても横から見ても、現実とは思えない。
さっきから脳みそのコールセンターに助けを求めているけど全く繋がらないんだ、このポンコツめ。
状況はさっきの通り、ぼうけんのしょ…つまり昨晩の記憶はなにがあってどこをどうしたのか不明だがSRAMが完全にイカれてしまったらしく、復元も不可能だ。察するにぼうけんのしょ2と3も消えてしまったんだろうな。
「ぶえっくしゅ!!」
汚いくしゃみひとつ。で、ロードすることはできないけど新しくぼうけんをはじめることはできるわけ、だ。
心臓が荒ぶりはじめる。
布団はしっかり掛布団2枚重ね。バナナの皮みたいに捲れて晒される俺の肩は、肌色。冷たい空気が隙を逃さず、熱を根絶しようと俺を刺す。
ふかふかのベッド。柔らかくて少し高めの枕はセミダブルの幅、端から端ギリギリまで占める大きなクッション。
垂れかけたよだれを手の甲で拭うと、目の前で俺の様子を我関せず窺っていた男はにたりと笑った。
同じ性別だというのに世界はどうしてこう不平等なんだろう。
俺はこいつが自分とは別の世界から来た異星人だと言われても納得してしまう。むしろそっちの方が、俺の容姿にも女にモテない性格にも理由をつけられる分、幸せなのに。
「おはよ。」
同じ地球人らしい見知った、知りすぎた顔が唇を動かす。喉の振動まで滑らかで加工後の最高級レザーを彷彿とさせる。俺は二の句が継げない。
わかることは俺もこの人も下着だけの素っ裸ってことだ。
「体、大丈夫?」
これがもし夢なら、俺は自分の体より頭の心配をした方がよさそうだ。けれどポンコツブレインは昨夜の愚行の一切合切記憶にございませんを貫き通すくせに頭の異常性だけは全力で否定する。代わりに、腰回りのギシギシ感とケツの風通しが我先にとアラームを上げた。
「…ねえ、まさか覚えてないなんて言わないよね、敦?」
ああそうだ、そういえばこういう展開で真っ先に口にするべきフレーズをまだ言っていなかったよな。お決まりパターンってのは存在するけども何でもかんでもあるある川柳に興して笑い話なんて小説の中だけだぞ? しかしここはあえて言わせていただこう。
…どうしてこうなった?
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