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一人暮らしの男の1DK
帰ってきてそうそうベッドに寝転んで数十分。特にやることもなく、やる気も起きない。
ただ、さっきからスマホの画面を開いては消し、開いては消し…を繰り返している。
何度目かに開いた画面は何度見ても変わらない。
メールアプリに登録された名前を長押ししては、解除して。
とどのつまり、加賀美さんの連絡先を消す決心がつかないのである。
いやいやあの人とはもう終わったんだ。俺が…終わらせたんだ。
わかってる。俺が未練を抱くのはお門違いだし、合わせる顔もないし、もうどうしようもない。
心の隅が本音をつつく。顔を合わせたくないほど、嫌いになったわけでもない。
「ええい女々しい!!男は黙ってブロックやろがい!!」
なーんて自分に喝を入れてみるも
「いやでも…ブロックしたかどうかは相手にはわからないわけだし…。」
この無限ループ。
厳密に言うと、ブロックされたかどうか確認する方法はある。こっそり調べた。
悩んでいる理由は、確認方法を加賀美さんが知ったとして、俺にブロックされたことに悲しむ加賀美さんを考えるとどうにも…。
んなこと考えてる時点で未練たらたらなんだけれども…。
「とりあえずここは非表示で様子見…っばぁ!?」
唐突に切り替わった画面にスマホを投げ捨てる。着信のようで、床で振動して動く様子は生き物みたいで気持ち悪い。
慌てて拾い上げるとそこには、やはりというべきか、しかし見たくなかった、加賀美さんの名前。
「で、出ちゃだめだぞ…出ちゃだめだ。」
出ても何話したらいいのかわからないし。居留守だ。伝家の宝刀、居留守を使うんだ。
伏せたまま蠢いていたスマホはしばらくしてぴたりと動きを止め、しんと静寂が部屋を支配する。
やってしまった…。
でも、これでよかったとも思う。
俺には、加賀美さんの恋人は荷が重すぎた。加賀美さんにとっても俺は平々凡々すぎてつまらなかったんじゃないか。
だめだ。考えれば考えるほど、自分がバカで最低な卑怯者だと思えるし、善悪をつけるなら別れを告げた俺の方が悪者のように思えてしまう。
だってそれくらい加賀美さんは非の打ち所がない人だし、俺があの人と別れた理由が、時間が経てば経つほど劣化していくくだらないものだから。
「忘れよう…嫌なことでも考えて。」
ぎゅっとベッドに丸まったまま目を閉じ、睡魔への没入を目指す。
羊を数える如く、加賀美さんと別れるに至った嫌な思い出の数々を巡らせて、これでよかったと納得するまで。
「…って明日からまた仕事じゃん!?」
最悪な二日目の休日を過ごした次の日。
俺は有休を使って会社を休んだ。
おわかりいただけただろうか。
俺と加賀美さんは同じ会社に勤めているのである。
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