パンケーキ

1/2
前へ
/30ページ
次へ

パンケーキ

 ぼくの方は、どんな服装で行く、と予め伝えてあった。仕事帰りなので、さえない服装ではあった。  そわそわと辺りを見回していると、前方からマスクをした一人の女性が近づいてきた。地味めのコートを着た、髪の長い女性だった。「あの、××さん、ですか?」  その人が、クボさんだった。ぼくが頷くと、マスクを外した。ちょっと拍子抜けするぐらい、普通の、化粧っ気のない女性だった。少し受け口なのが印象に残った。 「クボです。初めまして」 「クボさん。××です。よろしくお願いします」  そんな感じで挨拶を交わし、人ごみに押されるように、ぼく達は歩き始めた。 「すみません、仕事で少し残業になってしまって。待ちました?」  クボさんが普段どんな仕事をしているかの情報は、伝えてもらっていなかった。 「そうですか。大丈夫でしたか?お仕事の方」 「えぇ、大丈夫です。終わらせてきたので」  そんな会話をしながら、ぼくは今日の本題である「お話」をするために店に向かった。予め当たりをつけて、落ち着いて話せそうなカフェを考えていた。 「こんな感じでどうですか?」  ぼくが訊くと、「あ、そうですね。ここ入った事ないんです」と嬉しそうに笑った。パンケーキが美味しいと評判の店だ。  
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加