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パンケーキ
ぼくの方は、どんな服装で行く、と予め伝えてあった。仕事帰りなので、さえない服装ではあった。
そわそわと辺りを見回していると、前方からマスクをした一人の女性が近づいてきた。地味めのコートを着た、髪の長い女性だった。「あの、××さん、ですか?」
その人が、クボさんだった。ぼくが頷くと、マスクを外した。ちょっと拍子抜けするぐらい、普通の、化粧っ気のない女性だった。少し受け口なのが印象に残った。
「クボです。初めまして」
「クボさん。××です。よろしくお願いします」
そんな感じで挨拶を交わし、人ごみに押されるように、ぼく達は歩き始めた。
「すみません、仕事で少し残業になってしまって。待ちました?」
クボさんが普段どんな仕事をしているかの情報は、伝えてもらっていなかった。
「そうですか。大丈夫でしたか?お仕事の方」
「えぇ、大丈夫です。終わらせてきたので」
そんな会話をしながら、ぼくは今日の本題である「お話」をするために店に向かった。予め当たりをつけて、落ち着いて話せそうなカフェを考えていた。
「こんな感じでどうですか?」
ぼくが訊くと、「あ、そうですね。ここ入った事ないんです」と嬉しそうに笑った。パンケーキが美味しいと評判の店だ。
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