ぼくらのペース

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ぼくらのペース

 幾日か過ぎた。幸い仕事の納期が迫っていたから、ぼくは意識をそちらに向けるようにしていた。けれど、昼食の時や帰りの電車の中で、クボさんの事をやはり考えてしまっていた。 「ここでは、あたしの事、待ってくれるぐたいの人がいいです」  クボさんの言葉がどういう意味で発せられたのか、ぼんやりと考えていた。男のすけべ心で、良い方向に解釈してしまう自分を諌めてもいた。  漸く納期が過ぎ、次のプロジェクトまで少し、余裕が出来た。  ぼくは思い立って、あのサービスに連絡をとってみた。けれど答えは意外な、いや、或いは当然のものだった。 「申し訳ございません。クボは退店いたしました。お客様にはくれぐれもうよろしくと」 「そうですか…ありがとうございました」
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