ぼくらのペース

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 仕事上のマナーというかルールで、彼女がどこに住んでいるのか(だいたいは見当はつくけれど)、LINEの交換などもしていなかった。電話番号だって、メールアドレスだって知らない。  彼女が本当にクボさんという名前なのかも、ぼくは知らなかった。逢っている瞬間だけが、彼女の実体だった。話している間だけ、彼女は『クボさん』だった。  仕事は辞めたのだろうか。転居したのだろうか。そして少しは、自分のペースを掴めるようになっているだろうか。  そうしてまた暫くした頃、ぼくはもう一度話し相手サービスに連絡を入れた。 「あぁ、××様。最近入店した子がいます。今日は幸い、予約は入っていません」 「じゃあ、その子でお願いできますか。20時で。はい、いつもの待ち合わせ場所で」  ぼくはクボさん以外の誰かと逢う事で、自分の中のもやもやとした気持ちを払拭しようと思っていた。きっとクボさんのような女の子は現れない。もっと世慣れた、気さくで男あしらいの上手な、こういったサービスにいるような女の子だろう。
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