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すぐに席につけて、改めて向かい合う事になった。
「何にしますかね」とメニューを差し出すと、興味深く頁を繰って眺めている。
どうも「お話相手代行」というイメージと違うな、と思いながら、それでも何となく、若い頃に初めて女の子とお茶した時のような感覚を、ぼくは好意的に受け取っていた。
「スフレパンケーキどうですか?美味しいらしいですよ」
ぼくが言うと彼女が顔をあげて頷いた。「パンケーキ。食べた事ないです。これにしよう。いいですか?」
飲食代はぼくが持つ事になっている。「いいですよ。大丈夫」
ボリュームがあるので、二人でひとつを食べる事にした。そんな所もデートのようだった。
ぼくはこの店の自慢のブレンドを頼んだが、彼女はコーヒーは飲めない様子だった。「すみません」と謝ると「全然」と顔の前で手を振った。
普通の、ごく普通の女の子だった。自分の中にあった、何かちょっと邪な部分はそれで帳消しになった。
すぐに彼女のアイスティーとぼくのブレンドが運ばれてきた。
「では、よろしくお願いします」とぼくが言うと、
「はい、よろしくお願いします」とクボさんは頭を下げて、落ちてきた長い髪を耳にかけた。
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