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そこからは、ぼくがクボさんの話の聞き役になった。彼女からは沢山の言葉が溢れてきた。話し相手を捜していたのは、まるでクボさんの方のようだった。
ぼくにはこういう事がよくある。自分が何か話したい、伝えたいと思っているのに、気が付くと聞き役、相談相手に回っているという事が。それで沢山の恋愛のチャンスも逃した。相談に乗ってしまうのだから、恋人の俎上には上がらないのだ。
クボさんは地方から東京に出てきたのだけれど、今の職場に近い神奈川の寮にいる。仕事は工事現場の事務職で、朝は四時起きでお弁当を作り、男性ばかりの職場で夕方まで働き、そのまま帰って自分の夕食と明日のお弁当を作る、という生活を繰り返しているとの事だった。
「だから、こんな時間にこんな所でお茶をするのは久しぶりなんです」
「遊びに行ったりはしないの?買い物とか」
「行かないです。切りつめないと、実家にも仕送りしているので」
ぼくは何となく先入観で、若い娘さんたちは、SNSでキラキラした自分を切り取って人に褒めてもらって、楽しくやっているものだと思っていた。だからクボさんの語る毎日の単調な生活は、少しというか、大いに想像を裏切るものだった。
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