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こういう時は真っ直ぐ家に帰って静かに預金通帳と睨めっこでもするべきなのかもしれないが、杏子は小梅と予約していたレストランへと出かけた。小梅は彼女持ちの男と付き合っているので、イベントの日は空いている。
こじゃれたフレンチのレストランは右を見ても左を見てもカップルばかりだった。当然だ。家族連れよりもカップルが多いレストランをあえて選んだのだ。
店内は薄暗く、各テーブルにキャンドルが置いてある。
隣のテーブルでは、彼氏がサプライズでプロポーズをしていた。お店の人にも協力を依頼していたのであろう。彼女が頷くとケーキと花束が贈られ、店内には拍手が起こった。
何でこんな時に、わざわざ隣で!?
杏子は我関せずで拍手もせず、仔牛のフィレステーキを頬張っていた。
「どうせ男なんか浮気すんで」
拍手しながらニヤリとする小梅に「悪いヤツやなぁ」と言いつつ、自分も内心では同じことを思っていた。だから、小梅とは気が合うのだと杏子は思う。
美味しい物を食べただけでは気が治まらなかった。
よく行くワインバーで数杯、居酒屋に移動して数杯、浴びるように飲んだ。
その後の記憶はない――。
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