五十四話:丘を登ってカンタラ

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五十四話:丘を登ってカンタラ

 黄緑色の鳥さんがテオが書いたものを足でつかんで、東へ飛んでいく。  その姿を見つめていたら、すこし空が気になって、キョロキョロと見回す。  うん! 今日はグリフォンが飛んでいないね!  これなら、あの鳥さんも無事に……あ! ミミズさんもいるから……だ、大丈夫、だよね? 無事にあのお手紙を届けてくれるよね?  がんばって鳥さん!  鳥さんの無事を祈っていると、不思議そうに僕を見下ろしているメラニーと目が合った。  僕を心配してくれたとか? うーん違うかな?  なんでもいいや! うれしいし! 『鳥さんがミミズさんに食べられないように、って思っていたの!』 「ミミズ? あ、サンドワームね。たまにあるよ」  ……ん?  たまにあるの!?  鳥さん!? 「そしたらマルタがわかるから、書いた紙を複製してまた送るの!」  へー! すごい!  あれ? でも、鳥さんは食べられちゃったよね? 『だれがお手紙を送るの?』 「マルタがあの鳥をまた出すの」  鳥さんをたくさん出せるなんて、マルタってすごいね。  なんて言うんだっけ? えっと……手品師? みたいだね! 「でもマルタが来る前はしゃかりきバードを使っていたから大変だったんだよ! ね、テオ!」 「ああ。鳥籠を持ち歩くのは疲れるし、二キロメートル以内じゃないとバテて飛べなくなる。それなりに速く飛ぶんだが、飛ぶ高度が低いせいかサンドワームに簡単に捕食される。捕食されても届いてもこっちはわからない。……色々めちゃくちゃだったな」  メラニーに応えたテオがどこか遠くを見つめて、小さく「はは……」と笑った。  さっきと同じ笑い方。  苦笑い?  しゃかりきばーど。  ばーどって鳥さんって意味なんだっけ。  しゃかりきな鳥さん? 一所懸命な鳥さんなのかな?  素敵な名前だね。  でも、ちょっとこの荒野だとたいへんだったみたい。  思い出してみれば、僕が前にいた世界でも、ヒトは鳥さんに手紙を届けさせたり、兎さんを捕まえさせたりしていた。  ヒトって鳥さん使いが荒いね……鳥さん、どうか無事でいて……。 「マルタが来てからほんとに楽になったよねー。あ! あたしもあの魔法出来ないかな? ねえマルタ! あたしの障壁教えるから、その鳥の魔法教えてくれない? マルタが手が離せない時、あたしが出来たら役に立つかもしれないし!」  メラニーがうしろにふり返って、マルタを見上げる。  マルタはすこし考える様に目を伏せたあと、口元の布が動いた。 「貴方の障壁は手に余りそうだから遠慮するわ。でも……そうね。魔力で風を生み出し、手でこう、形を鳥にすれば出来上がりよ」  そう言って僕達に見えるように出した右手には、飛んでいった鳥さんと同じ黄緑色の魔力――ううん、風。  その風をしゅしゅっと左手でなでると、みるみる内に鳥さんになった。  鳥さんは、翼を広げて羽ばたき、メラニーの頭のさんかく帽子のツバに止まると、しゅばっと風になって黄緑色の光を残して消えた。  黄緑色の光もキラキラと瞬いて消えていく。  鳥さんは魔法だったんだね!  まるで生きているみたいだったからてっきり……ん?  魔法で生み出した鳥さんって、生きているのかな?  うーん、どうなんだろう?  動きは生きているみたいだけれど……あれ?  そもそも、生きているってなんだろう?  心臓が動いているかどうか?  でも、水や風だって生きているって言ったり、死んじゃっているって言うこともあるよね。  水や風に心臓は……見えないけれどあるのかな?  それとも……あ、生きていたら、いずれ死んじゃうよね。  なら、死んでいないもの全部のことなのかな?  そうかも! だったら……あれ?  死なないと、死がないと、生きているって言わないってこと?  生きていないと死なないように、死なないと生きていない、のかも? うーん……。 「ほんとに生きてるみたい! すごい! 精霊みたい!」  キラキラと消えていく光を見つめて、メラニーが喜びの声を上げる。  まあいっか! むずかしいことはあとで!  わかりそうな時にまた考えればいいよね!  それよりも、今はみんなとのお話をたのしまないと!  そんなこんなでお話しながら歩いていると、ぺたーんと平らな荒野にのっしりと座る丘の前で、テオが立ち止まった。  この丘、僕が空から見た時はなかった気がするけれど、上からだから気づかなかっただけなのかな? 「この丘を越えればカンタラが見えるぞ」  そう言って、テオは丘を登り始めた。  わ! そうなんだ! はやくいきたい! はやく見たい!  自然とテオについていく足がはやくなる。  でも、テオを追い越さないように。  でもでも、出来るだけはやく。 「おいおい大丈夫か?」 「ちょっと、今日は色々、あったから、疲れた」  テオがメラニーを心配しているみたい。  不思議に思って見てみれば、辛そうに下を向きながら歩くメラニー。  さんかく帽子もなんだかへにょんとしているし、杖が地面についちゃいそう。  お話しながら歩いていた時は、大丈夫そうに見えたけれど、一度止まったら疲れがどっときちゃったのかな?  じゃあ、うしろから背中を押して、手伝おう!  メラニーの背中を押すために、ささっとメラニーのうしろに回って、頭をメラニーの背中に……背中に……せなかー?  背中に届かない!  出来て膝の辺りにしか届かない!  どうしよう……そうだ! 『がんばれメラニー! がんばれー!』  メラニーの隣りについて、応援する。  応援すれば、元気になる。  元気になれば、丘もへっちゃらだよね! 「おお、なんか応援されてる……」 『テオも応援! マルタも!』 「おお?」 「えっ」  さんにんでメラニーを応援する。  メラニーはがんばって足を動かしているけれど、なんだか辛そうに目を細めている。  今にも倒れちゃいそう。  がんばれ! メラニー! 「ちょっと恥ずかしいからやめて……」  がーん!  そうだったんだ! ごめんね!  そのあとは、先頭がマルタに代わったり、心の中でメラニーを応援したりして、坂を上り――そして、ついに丘の頂上! 『わー!』  頂上につくとぶわぁっと視界が開けて、丘の先の景色が目の中に飛び込んできた。  荒野よりもすこし草が生えている平地。  その平地で飛ぶ白い小さな生き物。  そしてその先にあるのがテオ達が住んでいる町、カンタラ! かな?  カンタラを見て一番に思うのは、ガチャガチャのかぷせる? ってやつの上の部分。  あの透明な部分みたいなものが町全体を覆う様に被さっているみたい。  魔力感知でみてみると、地面の中にもある。  僕が自分の周りを覆う時の透明な壁みたいなものなのかな?  あれ? でも、それだとテオ達はどうやって出入り……まあいっか!  そんなことより、その中にある二番目に目立つ灰色の壁!  でーん! と大きな壁が町を守る様に立っている。  そのまんなかに大きな茶色い扉が見える。  木で出来ているのかな? それにしても、大きい!  あの扉じゃないと通れないくらいの大きなヒトが住んでいるのかな?  壁の端はすこし高くなっていて、ヒトのような姿がなんにんか見える。  あ! 今こっちを指ささなかった?  町を隠す様な壁だけれど、ぴょこっとすこしだけ建物の頭みたいなしかくいものも見える。  赤土色……かな? 背が高い建物があるみたい。 「ほら、後二、三歩だぞ。頑張れ」 「嘘。後七、八歩じゃない」  振り返ると、テオがメラニーの背中を押して、丘を登ってきた。  丘を登りきったメラニーは、「もうだめ」とその場で座り込む。  やった! メラニーが丘を登れた!  なんだかうれしくて、メラニーに駆け寄った。 『すごいよメラニー! がんばったね!』 「う、うん。ワカバも応援ありがと」  そう言ってふにゃりと笑うと、メラニーは頭をなでてくれた。  頭をなでられるのは、僕じゃなくてがんばったメラニーだと思うんだけれど……まあいっか! 元気が出たみたいだし! 「……! ワカバ、これから不思議な音がするが、害はない。気にしないでくれ」  テオがなにかに気づいたみたい。  害はないんだって。  じゃあいいよね! 『? わかった!』 ――キィィィィィィィィィィイイン  わ! びっくりした!  耳元で突然音が鳴ったみたい。  でも、周りを見渡しても、さっきの音が鳴りそうなものはなにもない。  金属が鳴って、ずっと震えているみたいな音。  これが不思議な音? 本当に不思議!  でも、どこかで聞いたことがある音だね!  不思議な音がしてすこし。  灰色の壁のまんなかの大きな扉の近くで、赤い光がポッ、ポッとついては消えた。  それに気づいたテオが「アベルの兄貴がお呼びだ。ワカバはここで二人と待っていてくれ」と言って、丘を下りて町へと向かっていく。  あの赤い光。僕は壁をずっと見ていたから気づいたけれど、まだ太陽が出ている時にやってもわからないよね。  それに気づいたテオはすごいや。  テオがもどってくるまで、お疲れのメラニーに魔法で風を送ったり、マルタとお話したりして待つ。  風を起こすだけなら無詠唱の方がいいんだって。  なんでって聞いたら、「詠唱は魔法を行使する際の補助です。見た所その風を起こす魔法の行使は手慣れている様子。補助が必要とは思えません」だって。  エルピが言うには、詠唱があると自分と周りの魔力でえいやっ! って出来たり、魔法を取られたくない時に防げたりするんじゃなかったっけ?  うーん。不思議ー?  そんなことを考えながら首を傾げていると、町の方から丘を登ってくるテオの姿が目に入る。 『テオだ!』  うれしくなって立ち上がると、テオのうしろにいるさんにんに気がついた。
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