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五十八話:ようこそ!
ぎるどますたぁ……ってなんだろう?
マットの前にいるのは、ヨミちゃんだよね。
あとは、マットのうしろのテオと、僕の側にいるサトちゃん。
ぎるどますたぁ、いないよ?
ヒト違い?
『マット、ヨミちゃんだよ?』
僕がマットを見上げながらそう言うと、
「そう。私はヨミちゃんだ」
ヨミちゃんもずずいとマットに迫る。
でも、マットはすこしも表情を変えず、
「そのようですね。ではギルド本部長、ワカバの件ですが」
ヨミちゃんをぎるどますたぁともう一度呼ぶ。
ヨミちゃんを見つめるマットの目に迷いがない。
もしかしたら、ヒト違いじゃないのかも。
でも、ぎるどますたぁってなに?
「いいや。私はヨミちゃ」
「ギルド本部長、民が待っております」
さっきよりも深く頭を下げるマット。
その姿にヨミちゃんは「うぅ……」と唸り、
「……じゃあ代理付けて」
ボソッと言った。
「ギルド本部長代理」
「よし」
うなずくヨミちゃん。
よくわからないけれど、ヨミちゃんは、ぎるどますたぁだいり、なんだね。
で、ぎるどますたぁ……だいり?
だいりは、たぶん代理だよね?
ぎるどますたぁの代わり。
やっぱり、ぎるどますたぁがわからないとだね。
聞いてみようかな?
そんなことを考えていたら、
「ねね、若葉さんや」
ヨミちゃんが僕を見下ろして言う。
『どうしたの?』
「私達の仲間になる気はないかい?」
仲間!!
やっぱり、仲間に入れてくれるみたい!
やったぁ!
「もちろん私達の仲間になると、様々な恩恵がありまーす! 例えば、冒険者ギルドが身分を保証するから、ギルドのある国や町に自由に出入りする事が出来るようになるよー」
僕が仲間に入るか決めかねていると思ったのか、ヨミちゃんが身ぶり手ぶりを交えて話し始めた。
自由にカンタラを出入り出来るのは、とっても素敵だね!
仲間になりたーい!
話を遮っちゃうとダメだから、仲間に入る意思をうなずきで示してみる。
けれど、それを話を聞いていると思ったのか、ヨミちゃんの話し声に力が入った。
「さらに、ギルド内のお店でお買い物をする時に、ランクに応じて割引するよー! 若葉の場合、最初からSランクにするから……えっと、何割? ちょっとマット、何割? 五割? 本当? おっけー五割! 五割引きだよー!」
ごわり……びき……?
マットに聞いちゃおう!
ヨミちゃんの隣りに立って、耳打ちしているマットに、『ごわりびきってなに?』と聞くと、「全体を十とし、五、すなわち半分引くことだ」と教えてくれた。
ごは、数字の五だったんだね!
へー! 知らなかった!
「さらにさらに~なんと! Sランクの若葉にはギルドから御給金が出まーす! Aランク以下だと何処かの国や町に所属するか、クエストを達成しないと出ないんだけど、Sランクなら所属しなくても出るんでーす!」
おきゅうきん?
マットへ視線を向けると、「金銭」と教えてくれて、それでもわからない僕のために、「謝礼金、給料、労働の対価となる金」と教えてくれて、お金を知っている僕がうなずくと、ホッと胸をなで下ろした。
ついでにぎるどますたぁについてもマットに聞くと、「ギルド本部長は、全ての冒険者ギルドをまとめる者であり、私達の長だ」って教えてくれた。
その代わりだから、ヨミちゃんはすごい! ってことだね!
これでよし! ヨミちゃんの話を聞こう!
マットにお礼を言って、ヨミちゃんの話に集中する。
「あっ! 今、お金なんて重たいから持ち歩けないって思ったでしょ?」
ん?
思っていなかったよ?
「大丈夫! ギルドの青い札を立てた受付に行けば、その場でお金を下ろせるし。ギルドに登録しているお店なら、このメダルを見せれば預けているお金から、その金額分使う事が出来まーす!」
ヨミちゃんがどこからともなく取り出したのは、青色が綺麗な首輪。
そのまんなか辺りに、短い鎖で付いたまるくて平たいもの。
あれがメダル?
夕焼け石の光があたって、あったかい黄色に輝いて綺麗!
あのメダルを見せたら、お金が引き出せたり、引き出さなくても、ごはんをもらえる? みたい。
お店は、ここの左側にあるあのお店だよね。
棚の上にいろんなものがおいてあるけれど……あれ? お肉はないのかな?
『お店にお肉はないのー?』
「あ、お肉? お肉……ピンチヒッター! マァット!」
ヨミちゃんにビシッと指さされたマットは、すこし考えたあと、口を開く。
「食用肉は、ヨアンの所が一番でしょうな。店が大きく見付けやすい上、品揃えも多く、ここからも近い」
ヨアンってヒトのお店?
もしかして、ここに来る時に見た、あの青い看板のお肉屋さんかな?
「ギルドと提携している店でもあるので、メダルを提示しての購入も可能です」
「だって!」
そうなんだ!
うんうんとうなずく僕に、得意気に鼻息を荒くするヨミちゃん。
えっと、ヨミちゃんとマットが教えてくれたことをまとめると……
『仲間になったら、カンタラに自由に出入りが出来て、お金がもらえて、お肉がもらえるってこと?』
「そう認識してもらって問題無いと思うよー!」
グイッと胸を張るヨミちゃん。
なら!
『じゃあ、仲間に入れてー!』
「いいよーこれで仲間だー」
ヨミちゃんがふわりと僕の側に来て、茶色の首輪をはずして、青い首輪を付けてくれる。
茶色の首輪はやわらかくて、付けていると落ち着いた。
けれど、この青い首輪はかたいから、付けているとすこし気になる。
でも、それでいいの!
だって、ずっと付けていたら、いつかやわらかくなるからね!
たのしみー!
くるんとその場で回って、胸を張る。
ふふーん。
どう? 似合ってる?
「おっけおっけー似合ってるねー!」
『やった!』
うれしくて、隣りのサトちゃんにも見せてみる。
けれど、サトちゃんは首輪に目もくれず、じっと僕の顔を見て、首をかしげた。
まだわかんないみたい。
「よし! これで若葉も仲間! マット、避難者全員戻しておっけー! 今みんなシェリルちゃんに健康診断してもらってるから、それが終わり次第戻って来てもらってー。あ! あと、アレ連れて来て。私が一人でアレ担いでゴブイチのとこ行くから」
「承りました」
「マットも大きくなったねぇ……昔は心の後ろを付いて回ってあんなに可愛かったのに……」
「……その話は勘弁していただけますか。部下もいるんですから」
?
見た目から、ヨミちゃんはマットよりも若いって思っていたけれど、もしかしたら、違うのかも?
……まあいっか!
どっちにしても、マットはマットだし、ヨミちゃんはヨミちゃんだもんね!
「あ、そだそだ。若葉!」
ん? どうしたの?
マットと話していたヨミちゃんが急にふり返った。
「ようこそカンタラへ! そしてようこそ冒険者ギルドへ! 私達冒険者一同は、君を大いに歓迎するよ!」
ヨミちゃん、マット、テオ、サトちゃんの顔を見回す。
首をかしげたサトちゃん以外のさんにんが、僕にうなずいてくれる。
ようこそ。
カンタラの門を抜けた時にも聞いた言葉。
あの時もうれしかったけれど、そのあとのみんなの視線から、壁みたいなものを感じた。
まあ、どっきり? だったけれどね!
でも、さっきのようこそは違った。
ここには僕を入れてごにんしかいないけれど、けれどそれでも。
目をそらすことなく僕を見てくれるその目が、僕がここにいてもいいって言ってくれているようで、とっても、とってもうれしかった。
こんなにうれしい気持ちにしてくれるヒト達に、僕はなにが出来るかな。
ブワッ! と扉が開く。
ノッシノッシと足音を立てて、大きな猪さんをかついで入ってきた大きな男のヒトは、さっき屋根の上にいたヒトだった。
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