足あと消しの少年

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 やるべきことを終えて館へ戻る。 「おぅ、ようやく戻ったか。今日の報酬だ」  革張りのソファに背中を預けて酒をくらっていたご主人は、首にかけていた大ぶりの宝石が連なるネックレスを投げてきた。  ばんっ!  勢いよく頬に当たり、反射的に目を瞑る。 「がははは。悪りぃ悪りぃ。酒のせいで手元が狂っちまった。今夜はもう下がりな!」  僕は床に落ちたネックレスを緩慢な動作で拾い、ポケットにしまおうとしたけれど……穴が空いていたのに気づいて仕方なく首にかけた。  むせ返るような酒の臭いが昇ってきて吐き気がした。  血の臭いは、もう気にならないというのに。  あてがわれているのは屋根裏。  ようやく僅かな自由時間だ。ただ、明かりがないので身動きは取れない。それでも、心は自由だ。  微かな月の光が、小さな窓から差し込んでいる。  宝石がその光を反射して、眩さに僕は目を細めた。  ——そうだ。  この光があれば、夜目が利くかもしれない。  僕は藁のベッドから、ぼろぼろの本を手探りで見つけ出す。  本と、もうひとつ。たったふたつだけが、僕の持ち物だった。  暗いけれど、読める……。文字をひとつずつ指でなぞる。 「ひ、と、の、こ、ろ、し、か、た」  頬を涙が伝った。  今、たくさんの宝石が光を与えてくれている。  こんなもの、人間の心を惑わすだけの忌々しいものだと思ってきたけれど、初めて価値を見い出せたような気がした。
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