足あと消しの少年

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「後はやっておけよ!」  荒々しいご主人の声と、もう慣れてしまった硝煙のにおい。  開け放たれたままの豪邸の扉の奥へ顔を向けると目を背けたくなるような惨劇が広がっていたけれど、それにももう慣れてしまった。 「はい、ご主人(ヴィツィオ)様」 「さっさとしろよ! まったく! グズでノロマなお前を雇ってやってるのは、それしかできないからなんだぞ!」  黒髭に覆われたいかつい顔立ち、いかにも裏社会で生きてきたという筋肉のつき方。それも当然で、彼は手練れの殺し屋だった。  唾と暴言を撒き散らしながらご主人は大股で歩いて去って行く。  僕は豪邸に足を踏み入れ、そんなご主人の残した足あとをひとつ残らず消し始める。  床ならば拭き、土が残っていたら掃き。  何のために?  証拠を、残さないために。  万が一作業中に警察が来ても、僕が捕まるだけ。    ーー僕の仕事は、「足あとを消す」こと。
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