五七日(ごなのか)

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五七日(ごなのか)

○由香里の部屋(夕方) 冷蔵庫に磁石で貼り付けている『お父さんの良いところリスト』を眺める由香里。    ×   ×   × T「五七日」 低い本棚の上に設置された簡易の神棚。その横に水の入った湯呑みが供えられ、線香が白い煙を燻らせる。 由香里N「閻魔様、父は天真爛漫で素直な美しい心を持っていました」 ○由香里の回想・公民館(夜) 葬儀が行われている。 由香里の伯父の遺影が祭壇に飾られている。 棺桶の蓋が開かれている。 葬儀社の社員、参列者に棺桶に入れる花を配る。 安川(71)、寂しそうに伯父の顔の側に花を置く。 その後に続いて、修平(42)と由香里(34)もポロポロ涙を流しながら伯父に花を添える。 更に参列者も、順に花を添える 由香里N「水と油ぐらい性格の違う伯父と父は、いつも兄弟喧嘩ばかりしていたそうです。だが、流石に、この時ばかりは父も落ち込み、とても寂しそうでした……しかし」 ○由香里の回想・公民館(朝) 安川が位牌を持ち、由香里が遺影を持っている。その横に親族一同、参列者の前に並び深々と頭を下げる。 葬儀社社員「それでは、ご遺族の皆様、バスの方に」 安川「すんまへん! 便所」 修平「(小声で)我慢できんのん?」 安川「できる訳、無いやろ!」 あんぐり口を開けて、安川を注目する親族一同と参列者。 由香里N「いわゆる空気を読めない男である……トイレだから、仕方ないのですが」 修平「早よ、戻ってきぃや」 安川「分かってる、分かってる。(親族に)すぐ、戻ってきまっさ」 と、トイレの方に走って行く。    ×   ×   × 会食の席。 葬儀社社員「皆様、お骨上げのお時間は一時半となります」 安川、修平、由香里、親族はめいめいの場所に座り懐石料理を楽しむ。 安川、赤ら顔でニコニコしながら、 安川「今日は皆集まって嬉しいなぁ」 由香里N「う、嬉しい?」 修平「(安川に)おい」 安川、立ち上がり、 安川「よっしゃ、皆、乾杯や!」 修平「何が、めでたいねん!」 大笑いの一同。 由香里N「献杯です。斯く言う私も、この日まで知りませんでしたが、流石に葬式の席で『嬉しい』だとか『乾杯』には違和感を覚えました。しかし、父だけでなく、伯父もまた親族が集まることを強く望んでいたらしいので、父の失言は、きっと笑って許してくれているでしょう。いつものことでしたし」 テーブルの片隅で、一同の様子を眺めて微笑む伯父の霊。 ○再び由香里の部屋(夕方) 手を合わせる由香里。 由香里N「天真爛漫過ぎるが故に、人に不愉快な思いをさせたことも多々ありましたが、父の明るさに癒された人も多くいたと思います。私も程々に父を見習って周囲の人たちを笑顔にしたいと思います」 ○冥土 カリカリ書類に結果を記述する閻魔様。 安川、不安そうに閻魔様の書類を覗く。 体で書類を隠す閻魔様。 安川「あれは、ついポロッと言うてもうただけやん。特に悪いことしてないやろ」 閻魔様「いつも、ポロッとなんですけど。そういえば、初七日で親族のみなさんの事、葬式なのに失礼とか何とか言ってませんでしたっけ?」 大笑いして誤魔化す安川。 安川「言うた、言うた。ハハハ」 胡散臭そうに安川を眺める閻魔様。 安川「確かに葬式は難しいな。普段と違うから」 閻魔様「まあ、今日のはお兄さんも、みなさんが集まることを望んでらしたのでプラスマイナスゼロの現状維持です。次、マイナス要素が入るとゼロを下回りますからね」 安川「せやけど、由香里、見習うって言うてたやん」 閻魔様「安川さん、あのね、大人の世界には社交辞令というものがございましてね。いい大人が社交辞令を真に受けるのも、如何なものかと思うのですが」 安川「あれ、嘘や言うてるん?」 閻魔様「愚痴になってしまったのを、苦し紛れに、締めくくった感が否めませんね」 安川「あんた、ひねくれてるわ」 閻魔様「お嬢さんが、仰る様に安川さんが底抜けに天真爛漫なだけなんですよ。以上。これにて五七日を終了いたします。お疲れ様でした」 と、足早に大きな扉の方に歩いて行く。 安川「底抜けまで、言うてへん!」
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