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こんな泣いたままじゃ家に帰れないと思い、近くの公園に行く。そこのトイレで散々泣いた。
(なんか最近、泣いてばっかだな俺。)
さっきの聖夜の言葉が、頭の中に張り付いて離れない。
「男同士とか無理。考えられない。」
そう言った聖夜の顔はどんな表情をしていたのだろうか。
聖夜への恋心を消したい。そう思うことは何度もあった。でも今日はその思いが一段と強くなったきがした。
落ち着いてきたので帰ろうと思い、鏡を見ると
(はっ、ひっでえ顔。)
泣き腫らして赤くなった目に泣き跡が酷い。
(こりゃあ誰にあっても泣いたことバレるな。でも聖夜にだけはバレたくないな。)
鏡の中を改めてみると泣きはらしてひどい顔をした、平凡な男。
俺がもし女だったら、かわいい女の子だったら。
あいつの隣にいるのは俺だったのだろうか。女になりたいと思ったことはなかったが、心底女が羨ましいと思った。
(帰ろ。)
辺りはすっかり暗くなっていた。
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家に入ろうとすると
「あれ?翼くん?」
と声をかけられる。
「透さん!」
「今帰ったの?おかえりなさい!」
「あ、はい。た、ただいまです… 透さんも仕事終わりですか?」
泣き腫らした顔を見られたくなくてつい俯きがちになってしまう。
「うん、そうだよお、今日も疲れたなあー。」
「お疲れ様です。じゃあおやすみなさい。」
顔を見られたくなくて家に入ろうとする。
「あ!ちょっと待って!弁当!!」
「え、あぁ!」
朝、渡した弁当箱のことだろう。
「ほんとにありがとねえ、美味しすぎてびっくりしたよーー。あれを毎日食べてた幼馴染くんがうらやましいよ」
そう言ってカバンから弁当箱を取り出す。
「いえ…… そんな大したもんじゃないですよ…」
傷心の俺には嬉しすぎる言葉で、また涙が出そうになる。
「あ、でも洗って返した方がいいか!また明日返すよやっぱり」
「いや、いいですいいです!食べてもらっただけありがたいんで。」
と言って弁当を受けとろうとするとひょいっとかわされる。
「…?」
不思議に思っているとそのまま、ぐいっと抱き寄せられた。
俺は一瞬何が起こったか分からず、5秒後くらいに透さんの胸の中にいることに気がついた。
(ん?え?!俺、今この人に抱きしめられてんのか?!)
思わず上を向くと、透さんと目が合った。
胸がどきっと高鳴る。
(やっぱり綺麗な人だ…)
そう思いしばらく見つめあっていると、はっと我に返り
「ちょっ、と、透さん?なんすかこれ…」
そう言うと、透さんは綺麗な顔でこう言った。
「そんな顔してる翼くん、放っておけないよ。」
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