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時間が止まった気がした。
「あと昼飯も優里と食べることになったから…わるい!!あ、翼一緒に食べる友達いるか?!」
申し訳ない顔をしながらも冗談も交えて追い討ちをかけてくる。
俺は思考が止まっていた。
(え… 今なんて言ったこいつ。優里ちゃんがこれから弁当作って一緒に食べるからいらない?俺はどうなるんだ。弁当の時だけ聖夜と一緒にいられたのに…)
「翼?」
聖夜がだまりこくった俺の顔をのぞき込む。
俺ははっとする。
「じゃあこれからはお前の分作らなくていいってことだな。楽になるから助かる。優里ちゃんに感謝だな。他に食べるヤツなんていくらでもいるから気にするな。今まではお前が寂しがると思って食ってやってただけだ。」
ついトゲのある言い方になってしまう。
「翼… 」
言いすぎたと思った俺は
「いや違うんだ…聖夜…」
「さみしいんだな?!!ごめんな!!?たまには一緒に食べような!!」
傷つけたかと一瞬心配したが聖夜にはノーダメージのようだ。
「お断りだ。お前が優里ちゃんの愛妻弁当食べてにやにやしてるなんて気持ち悪くて見てられねえ」
これは本音だった。
「へへっ、翼の料理もまた食べさせてくれよな。翼の料理っていわゆる俺のお袋の味ってやつだと思うんだよなあ!」
その言葉に泣きそうになる。
嬉しかった。お母さんがいない聖夜の寂しさを埋めるために始めたことだったから。よかった。無駄じゃなくて。
その言葉だけで救われた気がした。
(まあそれ聞けたのが優里ちゃんのおかげってのは気に食わねえけど…)
「で?いつからいらねえの?」
「来週から作ってきてくれるらしいから、弁当いるのは明日だけかな!」
「わかった。明日は特別にお前の好物だらけにしてやるよ。」
そう言うと聖夜はあの俺の大好きな表情で笑った。
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家に帰ると、すぐベッドに倒れ込んだ。
今日の昼の、聖夜のお袋の味発言を思い出しにやけが止まらなかった。
でもすぐその後、もう弁当を作る必要がないことと一緒に飯を食えないことを思い出しやっぱり泣いた。
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