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 数時間後、雅時が布団の上で目を覚ました。 彼はここがどこか分かっている。 起き上がると、その横には一杯の茶を乗せた盆が置かれていた。 その茶は、普段飲む茶よりは緑色が濃く、香りも独特で癖がある。 「それを貞義殿と一緒に持っていってくださいな」 雅時に歩み寄って、堂檎がそう言った。 「かたじけない。このご恩は必ず」 名残惜しく感じながらも、雅時と貞義は西蝉寺を出て、 秀吉のいる大阪城への帰路についた。  畏まった様子の武将が二人、同じ部屋に続けて入る。 小さく開けた襖を丁寧に閉めると、彼らはその場で畳の上に正座した。 「殿、”無茶”と”滅茶”を持って参りました」 しかし、秀吉の顔は暗い。 というよりは、申し訳なさそうな顔をしている。 「ご苦労であった。……じゃがな、もう要らぬのじゃ」 「殿、それは一体どういうことで?」 秀吉は何度か渋った末、真実を話した。 「実は、今しがた挨拶に来た家康が”苦茶”を飲み干してしまってな。  混ぜようがなくなったのじゃよ」 そして、表情を一変させ、こう付け加えた。 「そうじゃ! では、蝦夷地にあるという幻の茶”破茶”を探してきてくれぬか?  それと”滅茶”とを混ぜると、これまたとんでもない茶ができるらしい。  雅時も貞義もよいな?」 この発言を受け、二人が主従関係を忘れて叫ぶ。 「  無茶      苦茶でござる!!     滅茶         」 いや、二人のこれまでの行動こそ破茶滅茶や。 もうええわ。どうもありがとうございました。
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