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 畏まった様子の武将が二人、同じ部屋に続けて入る。 小さく開けた襖を丁寧に閉めると、彼らはその場で畳の上に正座した。 「殿、お呼びでしょうか」  二人の目の前に座っているのは、 天下統一を成し遂げた最強の武将 豊臣秀吉────。 「うむ。雅時(まさとき)貞義(さだよし)よ、儂がいつも利休に茶を任せておるのは知っているな?」 「はい、存じ上げておりまする」 瞬時に返ってきた答えを聞くや否や、秀吉の左口角が上がった。 「ならば、話は早い。お前たちをここに呼び集めたのは、他でもない。  駿河国(するがのくに)にあると噂されている幻の茶を探しに行ってもらいたいのじゃ」 雅時は初めて聞いたという顔をしているが、貞義は違う。 「殿、幻の茶というのは、もしや”無茶”と”滅茶”のことではござらぬか?」 「左様。貞義は分かっておるようじゃな。  昨晩、儂はこの世で最も苦みが強いとされる”苦茶”を手に入れた」 そう言うと、秀吉は床の間に置いてある湯呑みを手に取った。 二人は立ち上がろうとしたが、秀吉はそれを軽く制し、自ら湯飲みの中を見せた。 「ほれ、これじゃ。茶会で利休が偶然()てたものでな。  ちょいと口にしたのじゃが、すかさず舌が白旗を揚げおった」 見た限り、外見に特別変わった点はなさそうだが。 「この”苦茶”に、幻の茶である”無茶”か”滅茶”を混ぜれば、  唯一無二のとんでもない茶ができあがるという訳じゃ」
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