89人が本棚に入れています
本棚に追加
カキンッ! カキンッ! ギリリリィ……
激しい鍔迫り合いが互いの体力を削り続ける。
「貞義殿、其方も中々やりおるな」
傍から見れば互角のようだが、内情は違っていた。
元々刀使いに自信のない雅時にとっては、現在の戦局を保つのがやっと。
片や貞義は、秀吉に認められるほど刀の腕に長けている。
「雅時殿は私の後ろに控える者たちをお忘れか?」
貞義の背後にいる武将全員が弓を構える。
それと同時に、貞義が二人の立ち位置を反転させた。
「射よ!」
号令がかかり、矢が雅時の背を目掛けて放たれる。
追い込まれた雅時は、刀を抜いた。
右足で強く踏み込み、矢に自ら向かっていく。
スパッ! スパッ!
彼は華麗に刀で矢を払い除ける。
家来たちは予想だにしない出来事に腰を抜かし、
勝負は雅時と貞義との直接対決に縺れ込んだ。
二人は互いの様子を窺って牽制し合う。
それにより、距離を大胆に詰められないまま、随分と時が過ぎていった。
「待ちなされ。雅時殿と話がしたい」
貞義がそう呼びかけるが、雅時は応じない。
それどころか、雅時は一つの提案をした。
「貞義殿、武士は正々堂々と小細工無しで勝負すべきではござらなかったか?
話術も小細工のうち。ここは刀一本で決着をつけましょう」
「……そうでござるな。いざ、参らん」
朝日に照らされ、光る刀。駆ける二人の武士の姿が重なった。
木枯らしが地を這うように吹き抜ける。
二人は互いに背を向け、振り向かない。
「くっ、無念……」
一人が倒れた。貞義だ。
雅時は残る力を振り絞って刀を鞘へ納めた。
「無茶をしたか……」
また一人、倒れた。
最初のコメントを投稿しよう!