第十八話 三つ巴

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「あいつ、炎が嫌いみたい!」 「よしっ。今夜は焼き鳥に決定だな」  いやいやマズそうだし、灰になって消えるし。  そうツッコみながら、マリアは手のひらから炎を生み出し、セナがジャンプしたタイミングでそれを放り投げた。  炎は至近距離にいる人鳥のほうへ飛んでいったが素早くかわされ、命中することなく宙に消えてしまった。  ここは都市から少し離れた街道。  雑草の生えた広大な土地に舗装された道路が続き、その脇には背の高い街路樹とガス灯が連なっていた。  無事にやつを誘導することに成功したマリアとセナは、絶賛交戦中である。  だが鳥の動きは俊敏で、マリアの攻撃はほとんど当たらず、そのたびに風の刃で反撃されては結界を張るの繰り返しだった。  消耗戦になれば、こちらが不利である。 「セナ、いったんおろして! 二手に別れよう」 「おし!」  セナは鳥の背後にまわってマリアをおろすと、そこに攻撃が来ないように離れ、鳥の正面にまわった。  巨人戦同様、自分が囮を引き受けたのだ。  まさか空を飛ぶ生き物と戦闘になるとは想定しておらず、ギンとの修行がここで役立てるかどうかはわからない。だが、教えられたことをどう活かすかは自分しだいである。  セナは先手を相手に譲ることにして、ただ正面から、じっと奴の動きを注視した。 『おまえは待てもできないのか』 『相手の動きをよく読んで、それから攻撃の一手を判断しろ』  ギンはあの一週間、毎日のように口をすっぱくしてそう教えてくれた。  人鳥は一度旋回したあと動きを止め、宙に浮いたままセナを見下ろした。  人の形を模した鳥人間。その目はガラス玉のようにまんまるく、通常の人間よりも大きかった。その目がセナをとらえると、鳥は今までで一番けたたましい鳴き声をあげた。  まるで仲間でも呼んでいるような咆哮(ほうこう)に、セナは顔をしかめる。  鳥はやがて声を(しず)めると、セナに向かって急降下してきた。 「!」  まさか体当たりをしてくるとは思わず、セナは瞬時に後ろへ飛び退く。  鳥は地面スレスレで浮遊し、セナと目線の高さを合わせた。  セナのことをじっと観察しているような、攻撃一辺倒ではない奇妙な動きに、セナは戸惑いを隠せない。  遠くからそれを見守っていたマリアも、どうしていいのかわからないといった様子だ。  鳥人間とセナ。じりじりと対峙したまま、時間だけが過ぎていく。  いつまで経っても攻撃をしかけてこないことに、セナも最初の一手をどう繰り出せばいいか迷ってしまった。  やがて動いたのは人鳥のほうだった。  ヒトと同じ形をしたその腕をおもむろに伸ばすと、人鳥はセナのほうへと手のひらをかざした。 「!?」  もしやそこから攻撃が放たれるのでは、と全身の毛を逆立てて身構えた、その時だった。  ドォ────ン!!!  遠くから激しい轟音(ごうおん)が鳴り響き、地面を大きく揺らした。  突然の地響きにセナとマリアは硬直し、人鳥は空高く避難する。  音のもとを辿れば、それは都市の中心部からで、マリアとセナは顔を見合わせた。 「今度はなんだ!?」  都市の一部分から、もくもくと黒い煙がたちのぼっている。  その煙の向こうで、ゆらゆらと何かが動くのが見えた。そしてそれは煙を押しのけるようにゆっくりゆっくりと動いて、やがて正体をあらわにした。 「あれは……」 「もう一体、作ってやがったのか!」  のそのそとした動きに、遠くからでも確認できるほどの人型の巨体。それは南シグルスで見た生物兵器とまったく同じ様相だった。 「くそっ、こんな時に!」  上を見上げれば、鳥人間はこちらを攻撃する様子はなく、宙に浮かびながら突然現れた生物兵器を警戒しているようだった。  目を覚ましたばかりなのか生物兵器の動きはあいかわらずのろく、しばらく立ち上がった状態でその場に制止していた。  が、やがておぼつかない足取りで町を歩き始めた。  そのたびにドシン、ドシンと地響きが起こり、地面が割れて破片とともに噴煙が舞い上がる。  またしても制御ができないのか、巨人は血管の浮き出た白く長い腕を振り上げ、勢いよく建物を押しつぶした。左右の腕でいくつもいくつも叩き壊し、無作為に町を徘徊している。  その巨人が教会のほうへ向かっているのが見えて、マリアとセナは背筋を凍らせた。 「どうしよう、セナ!」 「いったん戻ってあいつも誘き寄せるぞ! 二体まとめて相手になってやる!」 「うん!」  セナがマリアを抱き上げると当時に、マリアは移動の術を発動させた。
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