第二十二話 コスタオーラ大陸

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第二十二話 コスタオーラ大陸

 深夜二時。宿をチェックアウトして外に出れば、当然空も景色も真っ暗だ。どこへ飛べばいいのか迷って、マリアはまったく何も考えずに力を発動させてみた。無意識に選んだ場所。もしかしたらそこにミサキがいるかもしれないと思ったからだ。  移動した先は、クリンたちの知らない港町だった。  まず驚いたのは、太陽の強烈な光。そして喧騒。寝静まった夜から一転して、ここはどうやら人々が行き交う真っ昼間の世界らしい。 「どこだ、ここ?」  セナはキョロキョロして周囲を見渡した。背後には大きな客船と、青々とした海が広がっている。故郷の港よりは大きいが、シグルスの港よりは規模が小さい。だが行き交う人の多いこと多いこと。旅人、商人、観光客。さまざまな人であふれていた。  突然光とともに現れた自分たちを見て、周囲の人たちはギョッと目を見張っていたようだが、特別な騒ぎになるでもなくやがて通り過ぎて行った。  乗船場にある大きな時計を見れば、短い針は十時を指していた。ずいぶんと時差があるようだ。 「わかったわ、コスタオーラ大陸だ」 「「コスタオーラ大陸?」」  兄弟そろって反芻(はんすう)してしまった。  プレミネンス教会があるミアジストラ大陸からはるか西、クリンたちが最初に渡ったグランムーア大陸から北西に位置するその大陸は、シグルス大陸とほぼ同じ大きさの大陸である。 bbade118-1307-470b-97e2-c26dff820f79 「どんな大陸なんだ?」 「ごめん、僕もあんまり知らないけど……たしか世界一綺麗な海がある大陸じゃなかったっけ? リゾート地として有名な」 「そうらしいわね」  さすがのクリンも、自分の目的地じゃない大陸については不勉強だった。一般知識の範疇(はんちゅう)でしか答えられなかったが、マリアは正解だと言った。 「なんでまた、リゾート地なんかに来たんだ?」 「あたしとミサキがプレミネンス教会を出て、最初にたどりついた大陸がここなの。いちばん最初の巡礼にね」 「へえ」  セナの質問に答えたマリアは、なつかしそうに風景を眺めている。彼女たちが旅に出てから、すでに一年以上が経過していた。マリアにとってここは、初心に戻る場所と言っても過言ではない。  だが懐かしさに浸っている場合ではない。目をこらしてキョロキョロと周囲を見渡してみるが、どこにもミサキの姿は見当たらなかった。残念ながら、ここには来ていないようだ。  多少がっかりはしたが、もともとここに狙いを定めて来たわけではないため、気を取り直したのは早かった。 「ここなら気配を探りあてられそうか?」 「うーん」  そもそも聖女の力の気配を探るという発想じたい思い浮かばなかった自分にとって、これは未知への挑戦である。  目を閉じて、瞼の奥に神経を集中させてみた。  しばらくその場に立ちつくして、やがてまわりの喧騒も聞こえないほど無我の境地に入り込んだ。聖女の力は、たしかに感じる。遠い場所、近い場所。温かかったり冷たかったり、硬かったり柔らかかったり……ひとえに聖女の力と言っても形容は十人十色みたいだ。 「……あれっ?」  ふと、別の何かに意識を奪われてしまい、集中が途切れる。  クリンとセナは集中力を途切れさせないように、話しかけることなく見守り続けていた。  再び目を閉じて気配を探ることにしたマリアだったが、その顔はしだいに険しくなっていき、やがてふっと力を抜いて中断した。 「だめ、気になって集中できない」 「どうした?」  ここでセナがやっと声をかけてみれば、マリアは少しだけ気が立っているような表情で答えた。 「近くにアレイナがいるのよ」 「……えっ?」  久しぶりに聞いた名前にクリンは一瞬だけ反応が鈍ったが、すぐにリンドワ王国の巡礼先で出会ったマリアのライバルであると思い出した。隣のセナなんて完全に忘れているようで「誰?」なんて首をかしげているが。  たしか、アレイナ・ロザウェル譲。どこかの国の侯爵令嬢で、マリアと同じ任を負って巡礼に出ている聖女である。マリアのことを敵視しており、プレミネンスにいた頃からさまざまな嫌がらせをしてきたらしい。 「おかしいなぁ。シグルスの巡礼はだいぶ前に終わったって聞いたけど」 「あー。そういや神父のところに案内してくれた人がそんなこと言ってたっけ」 「うん。本当だったらもうとっくに最後の巡礼が終わっていてもおかしくないのに……」  セナとマリアのやりとりを聞きながら、クリンも一緒になって首をかしげた。 「いまさら、なんでこの大陸にいるんだ?」 「さあ……」  マリアが気になって集中できないのは、おそらくその疑問があるからだろう。本来のルートとはかけ離れた場所にいるライバル。彼女の動向が気になるのも無理はない。  ミサキのことは心配だが……。 「アレイナさんのいる場所まで術で飛べそうか?」 「うーん。……うん、たぶん、できる」 「じゃあ、行ってみよう。もしかしたら息抜きで観光に来ているのかもしれないし。理由がわかればスッキリするだろ」 「そう……そうだね。うん」
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