第二十四話 セナ出生の秘密

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 腹部にダガーを突き立てたまま、セナは音もなくその場へ崩れ落ちた。その動きをスローモーションのように視界にとらえながら、クリンは茫然とセナを見上げたまま、動くことができずにいた。  見上げた視界からセナがいなくなって、天井だけが映される。時間にしておよそ数秒程度。クリンはようやく我に返って体を起こした。 「セナ……? セナ!」  倒れた弾みでダガーがわずかに傷口を広げたらしい。損傷箇所からじわじわと赤黒い液体があふれてきて、セナの洋服を濡らしていく。 「……クリ……」 「セナ!」 「怒るなよ……こんな、守りかた、しか……」 「しゃべるなバカ!」  ミサキが慌ててこちらに駆けてくる。マリアと交戦していたリヴァルも、予想もしていなかったセナの行動にさすがに驚きを隠せなかったようで、動きを止めた。  その隙にマリアは術をあみだし、リヴァルの真似をして真っ白な檻を作り上げると、そこにリヴァルを閉じ込めた。 「すぐ治癒を!」  マリアも遅れて駆けつけてセナに治癒術を施す。だが誰もが予想していたとおり、やはり彼の傷が(ふさ)がることはなかった。  その間にもセナの傷口からはどんどん赤い液体が流れ落ちていく。 「どうしよう……。もうっ、なんで効かないのよ、バカ!」 「クリンさん、すぐに止血を」  ミサキからタオルを受け取って、ダガーを抜かずに腹部を圧迫する。そのクリンの手を、セナが掴んで止めた。 「いい……ほっとけ」 「!?」 「もういいんだ。……こんな、化け物みたいな、生き物……」 「馬鹿なこと言うな!」 「せめて人間として……死に……」 「やめろよ、それ以上言ったら兄弟の縁切るからな!?」  セナはぶるっと体を震わせた。まずい、このままでは失血死は免れない。 「マリア! 頼む、移動だ。ラタンへ!」 「……っ」  クリンの声にハッとして、マリアは瞬時に全員へ手を伸ばした。 「行かないで!」  リヴァルの叫び声が聞こえて、背後から青白い光が飛んでくる。檻の中から放たれた光の矢はまっすぐにマリアをとらえていた。 「!」  だがその光を食らったのは、セナだった。どこにそんな力が残されていたのか、残りの力を振り絞って彼女に覆い被さったのだ。 「セナ!」  マリアに覆い被さったまま床に崩れ落ちれば、右肩に深々と突き刺さった光の矢は、瞬く間に消滅した。 「……マリア、俺……」 「やだ! やだやだ、セナ!」 「……どうせ死ぬなら……おまえに……言っときゃよかっ……」 「死ぬとかやめてよ、バカ!」  すべての力を使い果たして、セナの体はまた床へと逆戻りした。  大量の血液を失った体はしだいに体温を失っていく。  いまだ赤い色を宿していたその瞳は、重たい瞼に耐えきれずにゆっくりと幕をおろした。 「セナ! だめだ、起きろ!」 「みんな、あたしにつかまって!」  マリアの号令に全員が身を寄せ合う。クリンはハッと振り返って青い髪の少女を見た。彼女はいまだ床に沈んだまま、こちらを黙って見守っている。 「おいで!」  クリンが手を伸ばせば、少女は呼応して立ちあがり、この手をつかんだ。  と同時に、マリアはまばゆいほどの光を生み出して全員を包み込む。 「いやよ、行かないで! もう一人は嫌。行かないで、レイン!」  光のシャワーを浴びながら聞こえてきたのは、慟哭ともとれるリヴァルの叫び声だった。
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