第四話 再会は、またしても

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 ぐずぐずしている時間もないことから、マリアは簡単な説明だけ済ませた。  馬車が襲われ、ミサキが聖女と間違われて囚われたこと。奴隷として売られそうだということ。そしてここが奴らの根城で、怪我をしてフラフラ迷い込んだ演技をして、わざと奴らに捕まったこと。外でクリンとセナが待機していること。 「そんな……。どうしてそんな危ないことを」 「だって、こうするしかないじゃない」 「私なんか放っておけばいいじゃない。あなたは聖女なのよ、こんなことしてる場合じゃないでしょう」 「大事な友達を犠牲にするのが聖女? あたしはそんな人間になんかなりたくない」 「マリア……」 「むしろ奴らが狙ったのは聖女、つまりあたしだってことよ。きっちり落とし前をつけたいの。さあ、立てる?」 「ありがとう。大丈夫よ」  マリアが先に立ち上がり、ミサキも手を借りてそれにならった。出血したこめかみはズキズキしたが、大したことはなさそうだ。  ミサキにざっと作戦を説明したあとは、ついに実行に移る。 「いくわよ」  そう言うが早いか、マリアは閉ざされた窓に向けて両手をかざした。体全体が淡白い光に包まれて、最大限の力を放出できるように集中する。  やがて手のひらから、強力な光が放たれた。  ドン!と強い音が響き、木の板を打ち付けられた窓は木っ端微塵に吹っ飛ぶ。  当然、異変をかぎつけた賊が大勢押し寄せてきた。  合図だ。  小屋の窓が爆破されたのを確認するなり、クリンとセナが茂みから飛び出す。そしてセナは小屋の入り口へ、クリンは爆破された窓に向かって駆け出した。  敵に気づかれるよりも先に、セナは入り口を見張っていた男たちをあっという間に叩きのめしていく。そのままドアを蹴破って、根城の中へ堂々と進入した。  大きな部屋で待機していた大勢の賊どもを、またバッタバッタとなぎ倒していく。これ以上先へ進むつもりはないが、それを気取(けど)られないよう攻防を繰り広げる。とにかく自分は、一人でも多く奴らの注意を引ければいいのだ。 「ミサキ、マリア! こっちへ」  派手に吹っ飛ばされた窓──と言っても、すでに壁ごと壊されてしまっているので窓の面影は皆無だったが──そこへ駆けつけるなり、クリンは二人を誘導した。  賊を術で防ぎながら、マリアとミサキは穴のあいた壁からじりじりと後退をする。  二人が外へと無事、脱出することに成功したのを見計らい、クリンは手に持っていた袋を壁の穴めがけて投げつけた。  たちまち袋から粉塵が上がり、やつらが視界を奪われているうちに三人は全速力でその場を離れた。  『囮に次ぐ囮作戦』はうまくいったようだ。  しかし、このまま尻尾を巻いて逃げ去ったりはしない。落とし前はきっちりつけさせてもらわねば。 「これで終わりよ!」  マリアの手から光が(ほとばし)る。  それが小屋に向かって放たれた時、舞い上がる粉と化学反応を起こして派手な爆発が起こった。    それは小屋全体を吹っ飛ばし、木っ端微塵となった木屑の山から火の手が上がる。ほとんどの賊は戦闘不能に陥ったようで、倒れたまま起き上がる気配がない。  このまま死なせてしまうのも目覚めが悪いし、何より森林火災が起こっても困る。マリアは人差し指を天へと突き上げ、小屋に向かって振り下ろした。すると小屋の上にはたちまち雲が集まり、サァァッと雨を降らせるのだった。 「すごいな、聖女の術は……」 「マリアだけですよ、こんなにいろいろな術を操ることができるのは」 「そうなのか?」 「ええ。間違いなく、プレミネンスでも最上級の聖女です」  小屋が鎮火されていくのを、三人は少し離れたところから見守っていた。とっても大切なことを忘れたまま。 「お〜ま〜え〜ら〜……」  横の茂みから、ガサッと音を立てて現れたのは、全身灰色に染まったセナ。小屋が吹っ飛ばされた時、慌てて外に逃げ出したのだろう。あちこち傷だらけだが、大怪我は免れたみたいだ。 「あ、セナ」 「セナさん」 「しまった、あんたのこと忘れてたわ……」 「ざけんなっ!!!」  その後、全員がセナの垂直チョップを食らったのであった。  
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