第十三話 巨人との戦い

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 駆け寄ってみれば、すぐにそれを視界にとらえることができた。 「あれが生物兵器……」 「人間みてえだな」  のろまな動きで無差別に破壊を繰り返すそれは、さながら物語に出てくる巨人のようで不気味な雰囲気を(かも)し出していた。  衣服は来ておらず、性別不明の人型は人間に比べると手足が長く、色白の薄い皮膚からは身体中の血管が透けて見える。  とにかく、何より、巨体である。  突然出現した怪物に日常を奪われた住民は逃げ惑い、あちこちから悲鳴が聞こえていた。  現場にはすでに警備兵が駆けつけており、恐怖に耐えながらもなんとか巨人を鎮めようと躍起になっている。  警備兵は見たことない長い武器を構えていて、セナは眉をひそめた。 「なんだ、あれ?」 「拳銃よ」 「拳銃!? 何だそれ」 「鉛の弾が入ってるのよ。すごい速さで相手の体に撃ち込まれるの。ジパール帝国でしか生産されてないはずなのに……シグルス兵が持ってるなんてね」 「同盟の話は嘘じゃなかったってことか」  警備兵たちは統率のとれた動きで合図とともに銃を構え、一斉に撃ち込んでいく。  わずかに効果があるようで、巨人の太腿や腰に当たっては肉に穴を開けた。そこから真っ赤な血が溢れ、巨人は痛覚があるのか足をドシンドシンと踏みしめて、そのたびに地割れが生じる。  しかし警備兵たちもへたに近づくことができないため、遠巻きの射撃では決定打に欠けるようだ。  巨人の動きを止めることはできず、またひとつ、ふたつと家屋が破壊され、それが警備兵たちの上に落下する。 「大丈夫ですか!?」  マリアは駆けつけて、負傷した兵士に治癒術をかける。  一方でセナは瓦礫の下敷きになりそうな兵を助けていた。 「ひっ……聖女!」    治癒術を受けた警備兵は感謝どころか顔を真っ青にさせて逃げていった。そんなことはどうでもよく、一刻も早く巨人を倒して被害を最小限にとどめなければ。  セナとマリアは顔を見合わせて頷くと、巨人の前に躍り出た。 「近くで見ると予想以上に大きいわね。どうやって止めよう!?」 「人間っぽいしな……。会話とかしてみるか?」 「バカじゃないの!? そんな知能あったらこんなに暴れてないでしょうよ」 「それもそうだ。そんじゃ、コイツで語るしかねえか」  セナは拳を作って、高く高くジャンプした。  建物を利用してピョンピョン上へと舞い上がり、巨人の腹部めがけて試しに拳をお見舞いしてみた。  が、まったく効果は得られなかった。  ぽよんと跳ね返されて、セナは地面へと舞い戻る。 「相手にしてみたら、ただの猫パンチね」 「うるせーな! お前もなんかやってみろよ」 「言われなくても、やるわよ!」  マリアは両手を地面につけた。そこから生まれた数本の光の線が地面を張って、巨人の足下から突き出る。  足の裏を光の矢が貫通し、巨人は崩れて膝をついた。  そのはずみで地面が割れ、周辺に砂煙が舞う。  膝をついた巨人の頭は、三階建てと同じ背丈に。そこはもうセナの行動範囲である。  セナは巨人に向かって跳躍すると、顔面めがけて拳を振りかぶった。  それはど真ん中、鼻っ柱に命中する。  痛むのか、巨人はわずかに眉をひそめた。  声帯がないのか呻き声すらなかったが、それはしっかりと相手の痛覚を刺激したのか頭をぶんぶんと振り回している。  どうやら表情筋もうまく形成されていないらしい、無表情でもがく様は少しだけ不気味だった。 「お前たち、何をやってるんだ! 子どもはさっさと逃げなさい!」 「私は聖女です! 皆様を守ります」 「なんだって……!?」  警備兵から制止の声がかかるが、当然、ここで引き下がるつもりはない。  これは好機だ。巨人が立ち上がる前にこのまま地面に伏せてしまいたいところである。  セナはもう一度跳躍すると、相手の頭頂部に両拳をたたき込んだ。  が、わずかに力及ばず。上半身がぐらりと前のめりに揺れただけで巨人は倒れるに至らず、長い腕を持ち上げて自身の頭をおさえている。  遠巻きに見守っていた警備兵たちはセナの跳躍力と攻撃力に「なんだあの子どもは」とどよめきを隠せないようだ。  マリアは巨人に向かって特大な氷柱(つらら)を放った。氷柱の先端はまっすぐ巨人の眉間に突き刺さり、そこから血飛沫があがる。 「おまえ! 今の術」 「司教様のよ」  地面に舞い戻ったセナに、マリアは得意げに笑った。  驚異のラーニング力であるが、セナにとっては不愉快極まりない術だ。当然である、その術は今しがた発動させた本人が殺されかけた術なのだ。 「よりにもよってお前が使うなよ!」 「はぁ? どういう意味よ!」 「なんでもねーよ!」  そんな言い争いをしてしまったせいで、相手に立て直す時間を与えてしまったようだ。いまだに膝をついたまま、巨人はセナとマリアめがけて長い腕を振り下ろした。 「!」  セナがいち早く反応し、マリアを抱えてその拳から逃げる。叩きつけられた地面が割れて、粉々になったコンクリートが宙を舞った。  その破片の隙間から巨人の横顔が見える。その横目は真っ直ぐにセナへと注がれていた。  
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