頬杖をつく彼女へ

1/9
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 華やかに装飾されたパーティー会場を横目に、青白い顔をしたスーツ姿の男が駆け回っていた。 「佐々木さん、ありましたか?」  男はインカムのマイクで呼びかけたが、返事はない。 「聞こえていますか? 佐々木さん!」  男は再び呼びかけた。  すると、インカムからピピッと音がした。 「田中さん、やっぱりないですよぉ」  聞こえてきた間抜けな女性の声に、駆け回っていた男、田中の焦りは頂点に達した。  田中は渡り廊下を走り抜けた。今日はそこに幾つもの美しい絵が飾られている。どれも素晴らしいが、見ている暇はなかった。  すれ違うゲストに体が当たりそうになって、にらまれた。あとで口コミサイトに書かれるかもしれない。だが、知ったことではなかった。  もうすぐ始まってしまう。  田中は時計を見た。あと一時間だ。勢いよく部屋の扉を開くと同時に叫んだ。 「指輪は見つかったのか!」  挙式会場につながるスタッフルームで、佐々木がモゾモゾと動くのが見えた。髪をかきあげながら、床の上を舐めるように見渡していた。  もうすぐ結婚式が始まろうとしている。田中と佐々木は担当プランナーだ。ゲストが待合室でウエルカムドリンクを飲んだり、館内で写真を撮ったりしている。  そんな中、新郎新婦の指輪がなくなった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!