血迷った足跡

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私は人生を、歩んできた。この人生を、振り返って足跡をみる。 全部が、人生に迷って、右往左往している血迷っている足跡だ。 歩んできた足跡をみると、あんなことをしなければよかったと、思ってしまうことばかりである。 もう、先の見えない不安の道に、左足と右足を交互に出して、歩いていくことに、嫌気しか感じない。 私が歩んでいる先に待っているものの答えさえ知れば、こんな嫌気から、解放されるのにと思ってしまう。 好きで始めた店も、流行り出した殺人ウイルスで、潰れそうだし、このまま料理を続けていくべきなのか誰か教えてほしいものだ。 私は、かなり酔いながら、夜の街をあるいていた。 そんな時、マッサージ屋がある雑居ビルの下で、何やら怪しい婆さんが、机を広げて、パイプ椅子に腰掛けて座っていて、その近くに、紙で作ったかのような手作りの看板が置いてあった。 その看板には、手書きで足跡占いと書かれていた。 私は、酔っている勢いのせいか、そのおばさんに占ってほしくなった。 「あんた、占い師なんだろ。だったら、俺が今までどんな人生を歩いてきたか当ててみろよ」と言って、挑発した。 すると、おばさんはニコッと笑い。 柔らかくて、力を入れると型をつけてしまいそうな粘土が入った器をとりだしてきた。 おばさんは、「この器に入っている粘土に足跡をつけてください」と一言言った。 私は、おばさんの言う通り、恐る恐る粘土に足をつけて、踏み足跡をつけた。 おばさんは、「ありがとうございます。では、あなたの半生を当てて見せましょう」と言った。 おばさんは、目を私がつけた足跡に近づけて、何かぶつぶつと言い始めた。 「今まで歩いてきた人生を、吐き出せ、吐き出せ、足跡よ、足跡よ、足跡よ」 私は怖くなって、全身が硬直状態になった。 おばさんは、ぶつぶつと念じるのをやめると、少しため息をついて、深呼吸し、「きみ、人生の目的がないやろ」と言った。 私は、その一言で、今までの半生を言い当てられた気になった。 私は、憧れの人物や将来どうなりたいかと言うものがなかった。 だからこそ、時の流れに身を任せて、大事なことは、他人任せにしてきた。 それが、私の人生だからである。 私は、みすぼらしくなって、目から水滴が溢れ出た。 自分の意思を持たずに、卑怯なことをしていたという気持ちがあったからだ。 本当のことを言うと、ただ、私は失敗するのが、怖かったんだ。 自分よりも経験のある人の意見を取り入れれば、上手くいくという漠然としたかんがえしかなかった。 私は、「どうすれば、歩んでいる人生が正解だと思えるんでしょうか。」とおばさんに聞いた。 すると、おばさんは、「それは、あなたが一番わかっているんじゃないですか。」と言った。 そして、気づいたら、私は、また自分の人生が、正解だったのか間違いだったのかわからなくなった。 私はこのおばさんのことが気になって、助手になることを決めた。 「おばさんの仕事を手伝ってもいいか」と聞いてみると、「こんな仕事はやめておきな、占ったものに、投げ銭してもらうような商売だ。ほれ、お金を出せ」と言われた。 最初はこうやって、断れるものだが、私の気持ちは、真剣である。 数ヶ月間、客引きなどをしたりしていた。 私の真剣な志を認めたおばさんは、「お前、足跡占い師になるか」と聞いてきた。 私は、頷き足跡占い師になることを決めた。 足跡占い師になるには、足跡協会による申請が必要で、足跡鑑定試験というのを合格しなければ、占い師にはなれないという。 試験日までの間、私は他人の足跡をみて観察し、猛勉強していた。 そんな時、店の二番手の龍平から、電話がかかってきた。 「大変ですよ売り上げが、例年を下回っていて、これなら間違いなくうちは、潰れます」と焦っている龍平に、私は、「なにも、おどろきやしない。前々から、数字に出ていたことだ」と声をかけた。 龍平「退職金は出ますよね。」 「当たり前に決まってるだろ」 龍平「すみません、馬鹿な質問でした。ところで、就職先決まったんですか。」 「ああ、足跡占い師になろうと思ってる」 龍平「えっ、占い師ですか。調理師じゃないんですか。」 「興味が湧いたんだ。」 龍平「今、店長の彼女さんの莉子さんがきてますよ」 「莉子にかわってくれ」 龍平「わかりました。かわりますよ」 莉子「ねぇひらちゃん、今度旅行でも行かない」 「いや、そんな気分じゃないし、金がないんだ。」 莉子「ちぇっ、あっそう。でぇなんの話してたの」 「次の仕事、占い師になろうと思って」 莉子「あんた正気、占い師なんて、もっと稼げないから、もっと貧乏になるよ。馬鹿じゃないの」 「いや、でも決めたんだ。」 莉子「はぁ〜私さぁあんたの料理に惚れたから、付き合ったんだけど、もう変なことをこれ以上いったら、わかれるから」 「莉子はあれだろ、自分は料理作れないから、料理作れる男を探してだけだろ」 莉子「最低、やっぱりわかれるわぁ」 莉子は、電話を切った。 試験当時、私は、おばさんに教わった知識を使って、問題を解くことに成功した。 まだ、これでよかったのかという気持ちは、拭いきれなかった。 なんで、いつも失敗ばかりするのだろうか。 そういえば、今は、実際にあって喋ったりするのって本当に必要なのだろうかと思う。 みんな布マスクを、口に覆い隠すように装着している。 それに、占いの客引きも、成功することは、ほとんどなかった。 だったら、実際にあって、喋らなくても、いいようなコミニケーションツールで、商売すればいいのか。 誰もが思いつくような単純な思いつきなのかもしれない。 だけど、行動を起こすしか、他になかった。 私はそれからしばらくして、占い師として成功をおさめたのだった。
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