アングラ~夜紅羅 實光~

3/21
前へ
/21ページ
次へ
ここまではまあ、普通であろう。次が問題だった。 彼等は交代で製造ラインつまり、部品工場に視察に行くことがある。 キチンと出来ているかどうか粗探しをしに行くとでも言っておこうか。 そこで5人は同じ人間に眼をつけた。何時もぼさぼさで長い髪の毛をした瓶底眼鏡の見るからにひょろっとした中背くらいの若い男である。 工場長に言って、履歴書を確認すると学歴は「高校中退」とあった。勿論、それなりの大学を卒業して来た彼等はこの若い男を大いに馬鹿にし虐めた。虐めたと言っても、殴ったり蹴ったり等は一切行って居ないし、物を隠したり盗んだり壊した事も無い。 彼等は一番、姑息な手を使って自分達の溜まった鬱憤を発散した。その手とは「不当評価」である。実際、彼が出来る事は大半の者が出来る事であったが、それまでの過程や昇給に関連する評価を全て低評価し(あまつさ)え「お前の替えはいくらでもいる」と彼に囁き続けた。彼は何も言い返す事は無く、試験を受けさせる事はあっても「どうせ、受からないよ」と笑いながら言い放った。それでも彼は辞めずに当たり前の様に出勤し、黙々と仕事をしていた。 その姿に5人は癇癪に似た気持ちを抱いた。其処で、入ったばかりの何も出来ない者を目の前で猫可愛がりし、指を差して「あいつは使えない奴だから」とその新人と一緒に笑った。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加