アングラ~夜紅羅 實光~

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「あんたが死んだって誰も気づかないんじゃねーの」 周りに(おだ)てられ調子に乗った新人がそう言った時だった。男は無言で立ち上がり、一礼すると名札とアイディーカードをテーブルの上に置いて無言で去って行った。背中を丸めて部屋から出て行く姿が実に滑稽で何とも言えない優越感がその場に居る者達を支配していた。只一人、工場長だけを除いて。 工場長は直ぐに後を追いかけて、男を引き止めたが、男が首を縦に振る事は無くそのまま歩き去って行った。 数日が経ち、5人が次は誰を標的にしようかと冗談めかしながら喫煙室で話していた時だった。館内放送で上司に呼び出された。 慌てて、上司の元へ向かうと上司は電話中だった。 「――今、来ましたので、スピーカーにします」 スピーカーボタンを押した直後、受話器から聞こえて来たのはけたたましい金属音だった。パイプか何かが地面に転がり落ちる様な音である。只事ではない事態が電話の向こうで起こっている。
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