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「手、繋ごうか」
そう俺は言った。言葉通りの甘さはそこになく、必要に駆られての言葉だった。俺たちはそれまでスキーグローブを付けたままだったが、お互いに外して、彼女の手の甲に手のひらを載せて、その後、ぎゅっと握ってみた。彼女と触れ合った手はかじかんで感覚を失ったままそれが変わることはなかった。もしかしたらすこしは温かいのかもしれないが、焼け石に水でしかない。
火も明かりもなく、壁板がいくつも外れているこの小屋で俺たちはどれだけ生きていられるだろうか。電波の届かないスマホだけが唯一の明かりだった。
空腹でお腹が鳴って、俺は溜息を吐く。
「ねぇ、私、さ。実はあなたに嘘を吐いてたことがあるの」
「急に……なんだよ」
「なんでしょう?」と無理して明るく装う彼女の口調と笑みに合わせるように、俺も無理して笑顔を作ってみる。ちゃんと笑えているだろうか。「気を紛らわせるためにも話し続けよう。そうだ……お互いこんな時だから、さ。後悔しないように、今まで隠していたこと言わない? ……あっ、今の後悔すること前提に話してたね。ごめんごめん。とりあえず。こんな時じゃなきゃ話せないことってあるでしょ」
「ま、まぁ」
俺はひとつの隠し事を思い出し、彼女から目を逸らした。
「あるね。その顔は。まぁじゃあ、私から――実は」
……浮気か、まさか浮気なのか。
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