警部チャーリー・アダムの鬱積

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その後、記事を鵜呑みにした民衆から次々と依頼を受け事件を解決していった彼の名は都だけに留まらず国内全土で知らぬ者はいなくなった。 何度か捜査協力を依頼したことも事実だ 無論私はアルフォードの推理を鵜呑みにはしない。証拠と照らし合わせた結果それが間違いなければ犯人を逮捕する。それだけだ。 一人でも多くの犯罪者を逮捕するためならば手段は選ばない。 全ては国民を守るためだ。 恥など捨てねば。 「はぁ」 思わずデスクで大きな溜め息をついた。 部下は相変わらず、チラチラとこちらの動作を見てはいちいち反応している。 妻が誘拐されたというのに世間に発表することも出来ず、机にしがみついて一心不乱に資料を捲っている憐れな上司にしか見えないのだろう。 イラつきながらも再び資料へと視線を戻す。 アルフォードとルツの共通点。 それさえ見つけられれば事は自然と分かる気がする。 あれは言っていた。 確かにこれは僕の文字だ。 に宛てたものだが と ...ある人というのを聞き出せば話は早いのは分かっているが、奴は言わないと言った。 何よりじっくり考えれば分かることだと 「ふざけおって..」 あの男の顔がやたら馬鹿にしているように思えてチャーリー・アダムは拳を叩きつけた。 その音に再び部下がビクついて視線が集まるが気に留める余裕などない。 妻がいなくなって、もう一週間が過ぎようとしていた。 「君、いい加減にしたまえ」 すぐ隣に歩いてきた茹で玉子はこちらの気など汲む気もなく目障りだと顔に書いている。 「あれほどよい妻を持っておきながら君は仕事ばかりで家にも帰らずいったい何をしているのだ。ここにいられても空気が悪くなるだけだ」 「...署長、妻と会ったことが?」 苛立ちより反射的にそれを問えた分、自分はまだ冷静だ。 茹で玉子は一瞬目をぱちくりとさせたが鋭い視線に狼狽えながらも頷いた。 「あ、ああ。あるとも」 「いつ」 「何度もあるさ。君が現場に出向いている時君の妻は何度も差し入れをしていたよ。今日はどこの警備だとか、帰ってくるか。よく聞いてきて、羨ましい程甲斐甲斐しく…」 ソフトボイルドエッグ。 そんな嫌な予感が過り顔を背けた。 デスクに肘をつき、髭を撫でる。 茹で玉子はガミガミと何やら言っていたがもう耳には入らなかった。しばらく騒いだ後 いつものしかめっ面に戻ると何事も無かったように去っていく。 そういえば と手元にある資料を捲る。 初めての事件の際、手紙を見つけた使用人はなんと言う名だったか.. パラパラと捲った後にふと思い出した。 ああ、そうだ。確かヴァレンシア。 資料にある名を確かめる ヴァレンシア・ウェールズ 郊外にある孤児院出身らしい。 孤児院...確かアルフォードも母親を亡くしてすぐの頃は孤児院に預けられていたが 「Hand-tied branch(手繋ぎの樹)」 それはルツの蝋印で描かれた大きな樹。 葉の茂る枝々は手を繋ぐように繋がり空へと伸びている。 そして孤児院のシンボル。 ようやく糸口を見つけた気がした。
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